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社説・コラム

天風録 『那須正幹さん』

 夏休み。子どもたちはどう過ごすのだろう。猛暑もあって外で遊ばず、家でゲームざんまいか。昔と違う、今の子は分からない…。いつの時代も大人は嘆くが「そんなに変わらないよ」。そう思い、那須正幹さんは書き始める▲ハチベエ、ハカセ、モーちゃん。仲のいい6年生が宝探しや冒険へ乗り出す。ハラハラする場面も力を合わせて切り抜ける。ちょっぴり社会的なテーマもある。「ズッコケ三人組」が子どもを魅了するのもうなずける▲本が嫌いな子どもだった那須さん。だから「夢中になって読める本を書こう」と児童文学作家に。しかし「ズッコケ」は少年たちの成長を描く物語ではないため「軽薄だ」と批判も浴びた。それでも子どもたちの圧倒的な支持で大人気シリーズへ成長した▲平和な世の中で子どもたちがのびのびと駆け回る。3歳で被爆した那須さんの願いだった。だが次第に社会のきなくさい変化を感じ取る。戦争は決して過去のことじゃないよ―。原爆を題材にそう伝える作品も書いた▲3人組の物語を読み、大人になった「元」子どもたちは多いはず。数々の作品に込められた那須さんの遺言を、今の子どももじっくり読み継いでほしい。

(2021年7月24日朝刊掲載)

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