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巡業中被爆「桜隊」 8・6再結成 若手俳優ら 故新藤監督作品 東京で朗読劇

 米国による広島市への原爆投下で9人全員が亡くなった移動演劇「桜隊」が8月6日、若手俳優たちによる同名劇団として再結成され、殉難碑のある東京都目黒区の五百羅漢寺で追悼記念公演をする。映画化されなかった故新藤兼人監督(佐伯区出身)の脚本「ヒロシマ」を基にした朗読劇を上演。戦時下の先人に思いを寄せ、志半ばで散った無念をしのぶ。

 「みんな、真っ白な光に包まれた」。台本を手にする男女の叫びと、ごう音が舞台に響く。20日、同寺であった通し稽古。首都圏で活動する20~40代の俳優6人と、特別出演の俳優常盤貴子さん(49)、窪塚俊介さん(39)が顔をそろえた。2人は故大林宣彦監督の遺作「海辺の映画館―キネマの玉手箱」で桜隊を演じた縁で共演が実現した。

 約40分の朗読劇は原爆投下の瞬間の映像化を目指した新藤監督の脚本から、建物疎開に動員された生徒や桜隊の被爆の様子とその後を軸に、劇作家丸仲恵三さん(45)が再構成した。劇団運営を担う丸仲さんは「来年は広島公演を目指す」と話す。

 戦後、演劇仲間が中心になって桜隊の供養を続け、1975年からは「桜隊原爆忌の会」として8月に同寺で追悼会を開いてきた。会員の高齢化のため2018年に活動を休止。若い俳優らにも輪を広げようと昨年、同名劇団の再結成と「移動演劇桜隊 平和祈念会」への名称変更を決めた。

 朗読劇の演出を手掛ける同会事務局長の俳優青田いずみさん(59)は追悼会の運営に長年携わってきた。「戦時下は国家の統制で自由な演劇が制限された。会はこれからも非戦の思いを守り続ける」と話す。出演する中区出身の俳優平田みやびさん(22)は「コロナ下で演劇が『不要不急』とみなされている今に重なる」と桜隊を演じる意味を見いだす。「最近まで原爆で亡くなった役者がいたことを知らなかった。広島出身者として大切に語り継ぎたい」(桑原正敏)

移動演劇「桜隊」
 新劇俳優の丸山定夫を隊長に1945年結成。元宝塚スターの園井恵子らが参加し、6月から広島を拠点に活動した。山陰巡業を終えた隊員は8月6日、爆心地に近い堀川町(現中区)の宿舎で待機中に被爆。俳優や舞台係ら9人のうち5人が即死。丸山や園井ら4人は宮島、神戸、東京に逃れたが同月中に死亡した。移動演劇隊は戦時中、地方の戦意高揚を狙う国の号令で組織された。当時芝居を公演するすべは他になかったという。

(2021年7月26日朝刊掲載)

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