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「黒い雨」速やかに全員救済

 広島広島原爆の投下後に降った放射性物質を含む「黒い雨」被害で、広島県の湯崎英彦知事と広島市の松井一実市長は27日、国との協議で援護対象区域を速やかに広げたい考えを示した。健康被害を訴える住民たち84人が起こした訴訟で、菅義偉首相が26日、原告全員を被爆者と認定した広島高裁判決の上告を断念すると表明。県、市で引き出した「政治決断」を追い風に、原告と同様の状況にある被害者の救済を急ぐ。

広島知事

「来年度には援護拡大を」

 湯崎知事は27日、原告以外の黒い雨被害者の救済策を遅くとも来年度に始めるべきだとの考えを示した。具体的には国の援護対象区域の拡大だと指摘。新たな区域については、県と広島市が求める現行区域の約6倍の降雨域と、元気象研究所研究室長の増田善信さんが示した降雨域を合算するのが「最も合理的と思う」との認識を示した。

 首相談話の閣議決定を挟んで2回、記者会見した。救済策について「(国の)来年度予算には救済のための費用が反映される必要がある」と主張。援護対象区域の拡大に向けた作業では「大きな問題はあまり見えていない」と展望した。

 もう一つの論点として、黒い雨に遭った住民に無料で健康診断をし、がんや白内障など11の病気にかかれば被爆者健康手帳を交付する仕組みにも言及した。

 14日の広島高裁判決は、11の病気の発症にとらわれず、黒い雨に遭った人は被爆者に当たるとした。これに沿った形で原告以外の被害者に手帳を交付できるようにするためには「すごく時間がかかる。法改正も関わる」として、慎重に見極める姿勢を見せた。

 首相談話については「結論としては原告だけではなくて、黒い雨を浴びた方々を広く救済するという素晴らしい判断だ」とあらためて評価した。

 原告84人のうち、広島市在住者などを除く31人が県に被爆者健康手帳の交付を申請していた。県被爆者支援課は「8月中には市町を通じて手帳を渡せるよう準備する」としている。(河野揚)

広島市長

「8・6までに被爆者手帳」

 松井市長は市役所で報道陣の取材に対し、84人の原告のうち広島市在住などの53人については8月6日の原爆の日までに被爆者健康手帳を交付したい考えを明らかにした。原告以外を含めた黒い雨の被害者全体の救済策に向けては、国が議論の進め方自体を改める必要があると強調した。

 菅首相が原告に限らず救済策を検討すると明言した点に関して松井市長は「どこまでの範囲で原告と同様に救済するのか、手続き的な詰めがある。(黒い雨の被害者たちが)納得してもらえることを基本に協議する」と説明した。

 今回と同様に原告勝訴だった昨年7月の一審判決後、国が援護対象区域(大雨地域)を再検証する有識者検討会合を設けることを条件に、市と県が控訴を受け入れた経緯がある。ただ、初会合から8カ月がたっても区域拡大への方向性は見えなかった。

 松井市長はこの検討会合について「科学的知見でどこまで区域を広げられるかという議論になっている」と指摘。「科学的知見での検証作業を超えて、区域の拡大に向けた具体的な検討をしてほしい。議論の進め方を改めるようしっかりお願いする」と述べた。

 援護対象者を絞り込むことがないよう国の出方を注視するとも表明。援護対象者を限定しようとしてきた場合の対応については「救済をしっかりできるように意見を言うべく準備をしている」と語った。(久保田剛)

(2021年7月28日朝刊掲載)

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