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被爆者手帳 近く交付 黒い雨訴訟 判決確定

 広島への原爆投下後に降った「黒い雨」を巡る訴訟で、一審広島地裁判決に続き原告84人(うち14人は死亡)全員を被爆者と認定し、被爆者健康手帳の交付を認めた広島高裁判決が29日、確定した。国、広島県、広島市の被告側、原告側の双方が上告期限の28日までに上告しなかった。県と市は、8月6日の「原爆の日」までに原告全員へ手帳を交付するよう作業を急いでいる。(松本輝、岡田浩平、小林可奈)

 市は、来週初めにも53人分の手帳交付を始める予定。従来と同様、担当職員が市役所本庁舎で渡し、医療費や手当などについて説明する。市援護課の宍戸千穂課長は「対象者と日程を調整し、できる限り早く交付したい」と話す。31人から申請を受けていた県は30日にも関係市町に手帳を発送する。

 県市は14日の高裁判決後、上告を働き掛ける国に対し、断念するよう求めていた。菅義偉首相は26日、一転して上告断念を表明。27日には「訴訟への参加・不参加にかかわらず認定し、救済できるよう早急に対応を検討する」などとする首相談話を閣議決定した。焦点は今後、原告以外の黒い雨被害者や、国が指定した地域の外で原爆に遭った長崎の「被爆体験者」の認定の在り方に移る。

 首相の上告断念表明を受け、広島県、広島市には「自分も救済対象になるのか」といった問い合わせが相次いでいる。市には計39件(29日午後6時現在)が寄せられた。

 高裁判決では、黒い雨は1976年に国が指定した援護対象区域よりも広範囲に降ったとし、国の「線引き」の妥当性をあらためて否定した。被爆者認定は「放射能による健康被害が生じることを否定できないと立証すれば足りる」と判断。内部被曝(ひばく)による健康被害の影響を重視し、一審判決が認定要件としたがんや白内障など11疾病の発症にとらわれず、黒い雨に遭った人は被爆者と認めるべきだとした。

(2021年7月30日朝刊掲載)

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