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社説・コラム

[被爆75年 世界の報道を振り返る] 米国 社説で「原爆が命救う」

礼賛の論評 いまだ根強く

■広島市立大 井上泰浩教授

 原爆開発の拠点のひとつ米国ワシントン州ハンフォード近くの高校では、きのこ雲が校章として誇らしげに使われ、この原爆シンボルが街中にある―。数年前に報じられ話題となった。

 残念ながら、この地の新聞は入手できなかった。しかし、原爆の二大開発拠点の地元紙報道は、郷土の誇りであることをはっきり示していた。開発製造の中心地はニューメキシコ州ロスアラモスだ。同州の地元紙アルバカーキ・ジャーナルは、「平和行事」の告知記事をいくつか掲載していた。その行事の内容と紹介は、日本とかなり異なる。

 昨年の広島原爆の日の平和活動の記事は「最終的に第2次世界大戦の終結につながった」、行政主催行事の記事は「ロスアラモスが戦争終結に果たした役割を学ぼう」「戦争を終結させた革新的な科学の地であることは誇りだ」と伝える。

 同州では1945年7月16日、史上初の原爆実験(トリニティ)が行われた。同紙が、人類の偉業として7月にも原爆開発について連日大報道していたことを付け加えておきたい。

 核分裂の連鎖反応に成功した、つまり原爆の起源の地ともいえるのがシカゴ大(イリノイ州)だ。主要紙シカゴ・トリビューンの社説(昨年8月7日)はきのこ雲などの特大写真を使った全面特集だった。日本の新聞でこうした「映える」社説は見たことがない。一節を紹介しよう。

 「(原爆によって)戦争が終わったからこそ、何千もの計り知れない若い米国人は残酷な運命を避けることができた。これこそ、広島と長崎に対する冷静な正当化理由である」

 礼賛は地元だけではない。昨年8月6日、全国紙ウォールストリート・ジャーナルは、「原爆は何百万人もの命を救った―日本人も含めて」とする論評を掲載した。2005年には原爆を「救済」とたたえた社説を掲載しているので驚きはしなかったが、「やっぱり」だった。連載初回で紹介したワシントン・ポストの原爆を「道徳的」だとした論評は、少なくとも全米28紙、そして、世界3カ国3紙が転載をしていた。

 米国では主要紙の一部で原爆神話の揺らぎが見いだせた一方で、このように人命救済論が根づいている。

(2021年8月2日朝刊掲載)

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