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社説・コラム

社説 ミャンマー軍政半年 国際社会の圧力足りぬ

 ミャンマー国軍のクーデターから半年になる。この節目に、国軍トップのミン・アウン・フライン総司令官が暫定政府の首相に就任し、非常事態宣言終了後の2023年8月までに再選挙を行うと表明した。軍政の印象を薄める意図があろう。

 しかし、事実上の独裁を2年も続けた先の選挙が公正に行われる保証はあるまい。まずは民主派や市民への暴力を停止し、民主派指導者アウン・サン・スー・チー氏の拘束を解くべきである。クーデター前に時計の針を戻さなければならない。

 この半年、ミャンマー国内では国民の間の溝が広がって、和解は遠ざかる一方だ。民主派は少数民族の武装勢力と結び付く動きも見せている。国軍が強硬策を取り続けると、市民も武装してテロに走りかねない。

 兵士や警察官、国軍側の行政官らが狙われる事件も相次ぎ、東京五輪に出場しているアスリートたちにまで批判の矛先が向いているのは悲しい。ネット世論が国軍への抵抗の手段であると同時に、国軍への協力者を仮想敵に見立ててバッシングする様相を呈しているという。

 国民生活の窮乏も深刻である。国軍への「不服従運動」に伴って職場放棄が相次ぎ、とりわけ医療現場は深刻だという。クーデターに新型コロナウイルスの感染拡大が追い打ちをかけ、十分な治療や投薬が受けられないと報じられている。

 世界銀行は、ミャンマーの2020年10月から21年9月までの経済成長率がマイナス18%に落ち込む見通しだと発表した。経済活動が停滞し、銀行からの預金引き出しが制限されて「現金不足」も収まっていない。

 「アジア最後のフロンティア」として活況を呈していたミャンマーの国内経済がこれほど沈滞したのは、国軍による強権政治以外には理由がない。

 とはいえ国際社会の動きは鈍いといわざるを得ない。国連は相変わらず制裁などの措置に出ることができないでいる。

 唯一、6月の国連総会がミャンマーへの武器流入を防ぐよう全ての加盟国に要請する決議を採択したぐらいだ。これも当初案にはより強い文言が含まれていたが、表現が弱められ、実効性は乏しい。クーデターを非難するミャンマー国連大使のチョー・モー・トゥン氏が失望を隠さなかったのは無理もない。

 当面はミャンマーも加盟する東南アジア諸国連合(ASEAN)に期待するしかないだろう。ASEANは内政不干渉を原則とし、加盟国の人権・民主化問題には消極的だったが、今回は一歩踏み込んでいる。

 ASEAN内部にもミャンマーとの距離で温度差はあるが、どの国から調停役の特使が選ばれても結束して後押しし、ミャンマーも受け入れるべきだ。4月に合意した5項目のうち、最低限でも暴力の即時停止を履行しなければ道は開けまい。

 日本はどうか。茂木敏充外相はかねて国軍が暴力を停止しなければ政府開発援助(ODA)の全面停止も辞さないと述べるなど国軍に批判的ではあるが、具体的な動きが見えない。

 クーデター後も中国やロシアはインフラや武器の輸出を通じて国軍と関係を強めている。国軍に利益をもたらさないよう、日本は外交を通じて中ロに働き掛け、打開へ道を探るべきだ。

(2021年8月4日朝刊掲載)

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