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「生きろ」訴えた 戦中の沖縄知事 佐古忠彦監督映画 広島で上映中

 沖縄戦末期、日本軍の玉砕主義にあらがい、県民に生き延びろと伝え続けたリーダーがいた―。ドキュメンタリー映画「生きろ 島田叡(あきら)―戦中最後の沖縄県知事」が、広島市中区のサロンシネマで上映されている。TBS報道局員の佐古忠彦監督(56)は「軍と住民の間で矛盾する使命に悩みながら、人間としての島田が何を守ったかを描きたかった」と語る。

 沖縄戦直前の1945年1月に知事として着任した島田は、疎開の促進や大量の米の確保など県民に寄り添った施策を次々決断。畑から無断で野菜を取ることも許し、軍の方針に反して県庁を解散。県民に米軍への投降を勧め、生きる道を開き、自らは消息不明になった。

 島田の写真数枚が残るのみで映像も音声もない中、故・大田昌秀元知事や生存者の住民たち22人の証言から島田の実像をたどる。「むやみに死んじゃだめだ」「軍と行動を共にするんじゃないぞ」「僕は生きて帰るから君も頑張れよ」…。島田の言葉から浮かび上がるのは、本土防衛の捨て石として県民に玉砕を迫る軍に対し、一人でも多くの命を救おうとした姿だ。

 「全体主義の中、想像を絶する葛藤があったはず。でも島田の根底には、常に住民の立場に向き合う誠実さと信念があった」と佐古監督。「新型コロナ禍の私たちも、リーダーの決断一つで右往左往している。どこを向いて施策を判断するべきなのか、リーダー論を考える上で、今こそ胸に響くはず」と強調する。

 同館での上映は12日まで。(木原由維)

(2021年8月4日朝刊掲載)

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