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核禁止条約 希望の光に 広島 あす原爆の日

 広島は6日、原爆の日を迎える。76年前、米軍が人類史上初めて市民の頭上でさく裂させた原爆は、街を壊滅させ、無差別に命を奪った。今なお多くの被爆者の心身を苦しめる。二度と繰り返してはならない―。被爆者や市民の訴えを背景に、核兵器禁止条約が1月に発効した。条約を「人類全体の規範」とし、核兵器を廃絶する道を確かなものにできるか。世界は岐路に立っている。

 条約は核兵器を持たない国が主導し、2017年に122カ国・地域の賛成で採択。昨年10月に批准が発効要件の50カ国・地域に達し、今年1月に発効した。前文で「ヒバクシャ」の耐えがたい苦しみに触れ、核兵器の存在につながる行為一切を禁じる。被爆者にとって希望の光となっている。

 だが、保有国は条約に反発。3月には英国が核弾頭保有数の上限を引き上げると表明した。米国の大統領は、核戦力の増強に意欲的だったトランプ氏から、オバマ元大統領が掲げた「核兵器なき世界」の目標を受け継ぐバイデン氏に代わったが、具体的に核軍縮をどこまで実行するかは不透明だ。

 米国の「核の傘」に依存する日本政府は条約に背を向ける。来年1月に予定される締約国会議ではオブバーザーとして参加する道もあるが、慎重な姿勢を取る。中国新聞のアンケートでは、全国の被爆者団体の9割近くが政府に対し、まずはオブザーバーの形でも会議に出るべきだと答えた。被爆国として会議に参加し、非保有国と保有国をつなぐ「橋渡し役」を果たすべきだ。

 原爆投下後に降った「黒い雨」の訴訟では7月、政府が上告を断念。国の援護対象区域の外側で黒い雨に遭った原告84人を被爆者と認め、被爆者健康手帳の交付を始めた。政府は原告以外の救済を急ぐべきだ。

 76年の長い年月を経ても苦しみ続ける被爆者。その切実な願いから生まれた核兵器禁止条約を悲願の達成へとつなげたい。被爆の惨禍の証しを守り、後世に伝え、世界に共感を広げていく被爆地の役割は一層重くなる。(久保田剛)

(2021年8月5日朝刊掲載)

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