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社説・コラム

天風録 『使えない兵器』

 米中枢同時テロから来月で20年になる。だが、世界最強の戦力を誇る米軍をもってしても、テロはなくせない。いまアフガニスタンから帰還する米兵たちは、命を永らえた喜びとともに、何のための戦争だったかと虚無感に見舞われていることだろう▲なぜ米軍は勝てなくなったのか―。陸軍退役将校のショーン・マクフェイト氏が著した「戦争の新しい10のルール」が興味深い。戦争自体は急速に変わっているのに、米軍がその変化に対応し切れていないためという▲小欄としては「広島・長崎の記憶」も加えたい。きのこ雲の下の惨状を知るほどに核兵器の発射ボタンを押せなくなるのが、いの一番のルールとなったはずだ。使えない兵器が抑止力を持つなんて、それこそ幻想にすぎまい▲さらに市民を巻き添えにする戦争に勝者などいないという「0番」ルールもあろう。戦時中とはいえ市街地に原爆を落とし、戦争を早期終結させたと居直ったものの、その胸中やいかに。米軍の弱体化とは結局、戦闘行為を正当化できないためでは▲きょう、原爆の日。私たち一人一人があらためて、あの76年前の惨禍を心に刻み直そう。テロも戦争もない世界を築いていくために。

(2021年8月6日朝刊掲載)

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