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核廃絶 社会の総意に 被爆76年式典 広島平和宣言 禁止条約 国は批准を

 米軍による原爆投下から76年となる「原爆の日」の6日、広島市は原爆死没者慰霊式・平和祈念式(平和記念式典)を中区の平和記念公園で営んだ。松井一実市長は平和宣言で、核兵器廃絶が「市民社会の総意」になるよう被爆の実態を広く発信し、核保有国の為政者たちに政策転換を迫ると強調。日本政府に対し、1月に発効した核兵器禁止条約への署名・批准と、「黒い雨」の被害者の早期救済を求めた。(久保田剛)

 核兵器の使用や開発を全面禁止した同条約が発効して初めてとなる平和宣言で松井市長は「核兵器の恐ろしさや非人道性を伝えてきた被爆者の願いや行動が国際社会を動かした」と条約の意義を説明。各国の為政者が条約を支持し核兵器の脅威のない持続可能な社会を目指すべきだと説いた。

 日本政府に対しては、被爆者の思いを誠実に受け止めて一刻も早く締約国となるよう要請。来年1月にオーストリアで予定される第1回締約国会議に参加し、核保有国と非保有国の橋渡し役を果たすよう求めた。

 「黒い雨」の被害者援護にも言及。政府の援護対象区域外で黒い雨に遭った84人による訴訟で、原告全員に被爆者健康手帳の交付を命じた7月14日の広島高裁判決を政府が受け入れ、上告を断念したことを踏まえ、原告以外を含めた早期救済を求めた。被爆者支援の拡充も求めた。

 参列した菅義偉首相はあいさつで条約の参加の是非に言及しなかった。式典後の記者会見では核兵器廃絶をゴールとする点は一致するとしつつ、核保有国の不支持などを理由に署名する考えはないと明言。締約国会議へのオブザーバー参加にも慎重な姿勢を示した。

 式典には被爆者や政府関係者、核保有国7カ国を含む83カ国と欧州連合(EU)の各国大使たちが出席したが、新型コロナウイルスの感染予防のため、昨年に続いて参列席を限定。参列者は例年の1割に満たない751人だった。このうち都道府県の遺族代表は24人で、昨年の23人に次いで過去2番目に少なかった。

 式典では、原爆投下時刻の午前8時15分、遺族代表とこども代表が「平和の鐘」を突き、全員で黙とうした。コロナ禍で昨年は中止された、ハトを放つ「放鳩(ほうきゅう)」に続き、小学6年の代表2人が「平和の尊さや大切さを、世界中の人々や次世代に伝えなければならない」などと「平和への誓い」を発表した。この1年間に死亡が確認された4800人の名前を記した原爆死没者名簿が原爆慰霊碑に納められ、名簿は121冊、計32万8929人となった。

平和宣言骨子
■核兵器の非人道性などを訴えてきた被爆者の思いと行動が国際社会を動かし、核兵器禁止条約の発効として結実した
■世界各国が人類の脅威となっている新型コロナウイルスを早期に終息させる方向で一致している。核兵器を一致団結して廃絶できないはずがない
■核兵器廃絶を市民社会の総意とするため、被爆地広島は、被爆の実態を「守り」、国境を越えて「広め」、次世代に「伝える」ための活動を不断に行う。為政者の政策転換を促す環境づくりを進める
■日本政府は核兵器禁止条約の締約国となり、来年1月に予定する第1回締約国会議に参加し、核保有国と非保有国の橋渡し役をしっかり果たしてほしい
■日本政府には「黒い雨」の体験者を早急に救済し、被爆者支援策をさらに充実させるよう強く求める

(2021年8月7日朝刊掲載)

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