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語らぬ首相 被爆者落胆 従来の発言繰り返す

 菅義偉首相が出席する広島市主催の「被爆者代表から要望を聞く会」が6日、中区のホテルであった。二つの広島県被団協など7団体は、昨年9月の就任後に初めて顔を合わせる菅首相の言動に注目した。「黒い雨」訴訟で上告断念を政治決断した説明があったものの、核兵器廃絶や被爆者救済について踏み込んだ発言はなく、「がっかりした」との声が漏れた。(下久保聖司、口元惇矢)

 菅首相は、先立つ平和記念式典でのあいさつと同じ言を重ねた。哀悼の誠、非核三原則の堅持、核兵器のない世界…。「黒い雨」訴訟を終結させた政治決断は「熟慮に熟慮を重ね、被爆者援護法の理念に立ち返り、上告しないことにした」。7月の表明時から繰り返す物言いだった。

 被爆者たちは、新しい首相への期待も込め、被爆2世への援護や原爆症認定基準の見直しなどを求めた。しかし、同席した田村憲久厚生労働相たち政府側の回答には、大きな進展はなかった。

 象徴的だったのは、1月に発効した核兵器禁止条約へのスタンスだ。菅首相は「被爆国として条約が目指す核廃絶というゴールは共有している」と述べながらも、「目標実現には核保有国を巻き込んで核軍縮を進めるのが不可欠だ」と主張。禁止条約に署名、批准する考えがないことをあらためて示した。

 会談後、県被団協の佐久間邦彦理事長(76)は「非核三原則の堅持を訴えたのだから条約に批准すべきだ」と指摘した。もう一つの県被団協(坪井直理事長)の箕牧(みまき)智之理事長代行(79)は「東京五輪や新型コロナウイルス対策で疲れているのだろうが、私たちの要望を具体的に進めてほしい」と望んだ。

(2021年8月7日朝刊掲載)

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