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祈り脈々と 「平和の鐘」 懐かしい響き 旧市民球場跡地近く 大規模修繕終える

父たちがつくった価値ある音色。残したい

 原爆投下から76年となった6日、広島市内は犠牲者の追悼や、核兵器の廃絶を願う人たちの祈りに包まれた。あの日の記憶を次代へつなぎ、世界にも発信していく―。新型コロナウイルス禍で規模を縮小した慰霊祭などもある中、被爆地の思いが各地で紡がれた。

 ガラーン、ガラーン…。原爆の犠牲者を悼んで世界平和を祈る鐘は、どこか懐かしい音色を響かせる。広島市中区の旧広島市民球場跡地近くにある「平和の鐘」。1949年の設置から初めての大規模修繕を終え、原爆の日を迎えた。

 午前9時半、市民有志でつくる「響け!平和の鐘実行委員会」が開いた祈念式では、高東博視代表(75)が「込められた気高く熱い思いをかみしめて打ち鳴らしましょう」とあいさつした。参列した約40人が鎮魂の祈りをささげ、鐘が鳴らされると拍手が湧き上がった。

 参列者もそれぞれ音を響かせた。小学4年亀尾美結子さん(10)=南区=は「少し悲しい音色。いろんな人の気持ちが詰まってるのかなって思った」とあの日に思いをはせた。

 平和の鐘は被爆4年後に広島銅合金鋳造会の職人たちが焼け跡に残る金属を集めて造り、市に寄贈した。世界に平和を発信しようと洋風の形に。つがいのハトの模様や「ノーモア・ヒロシマズ」の英文を刻む。同年の第3回平和祭(現平和記念式典)で鳴らされた後はほとんど使われていなかったが、2015年から実行委が8月6日に鳴らすようになった。

 ただ、基礎部分などの傷みが深刻になっていた。職人の遺族を含む実行委メンバーが市に修繕を要望し、昨年12月に工事が始まった。周辺の整地もして芝生を植え、4点のうち3点が失われていた鐘楼を飾るハトの鋳物も再現した。

 今後は、市民が自由に鳴らすことができる。父が完成当時の鋳造会の会長で被爆者の松村伸吉さん(80)=西区=は「きれいな音とは言えないですが、父たちがつくった価値ある音色。ずっと残していきたい」とかみしめていた。(標葉知美)

(2021年8月7日朝刊掲載)

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