×

ニュース

カラー写真 よみがえる記憶 広島本大賞受賞 庭田さんに聞く

AI彩色 聞き取り重ね補正

 第11回広島本大賞に、広島市東区出身の東京大2年庭田杏珠さん(19)と同大大学院の渡邉英徳教授(46)の共著「AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争」(写真・光文社)が決まった。庭田さんに作品に込めた思いを聞いた。(鈴中直美)

 戦前から終戦までに撮影されたモノクロ写真を、人工知能(AI)技術でカラー化した写真集。戦前・戦中の広島をはじめ、原爆投下後の長崎、空襲に遭った東京や大阪、地上戦の舞台となった沖縄の写真が色彩を伴って立ち現れる。庭田さんは出身の広島の写真を中心に手掛けた。

 爆心直下の旧中島地区に並ぶ商店や、川土手で体操する児童、スイカを食べる家族のだんらん―。庭田さんが本書に選んだ写真は被爆の惨状ではなく、ささやかな日常を捉えた場面が多い。「当時の暮らしを想像した上で、日常が突然失われることを『自分ごと』として捉えてほしい」との願いからだ。

◆ ◆ ◆

 広島市の花見の名所だったという長寿園で被爆前に撮られた一枚は、旧中島地区で家族を失った元住民から提供を受けた。AIで自動的に彩色し、資料や聞き取りを基に手作業で色を補正していった。ピンクの桜の下で家族が勢ぞろいしたカラー写真に元住民は「みんなが生きているようだ」と喜んだ。さらに、背景の青々した杉並木を見て「杉鉄砲でよう遊んだ」と新たな記憶も呼び起こした。

 「カラー写真を囲んで会話すると、氷が解けるように自然と記憶がよみがえってくる」と庭田さん。「母は青い着物を好んで着ていた」「タンポポの広がる黄色い花畑だった」―。持ち主らの記憶に沿って色づいた写真からは、温かく幸せな家族との日々が伝わってくる。

 庭田さんは高校時代、被爆者の証言収録に取り組んでいた。「どうすれば戦争体験者の思いや記憶を継承していけるか、ずっと考えてきた」。1年生の時、カラー化技術の講習会で学校を訪れた渡邉教授と出会って以来、カラー化の仕組みや手法を学んできた。その後、東京大に進学し、アートやテクノロジーを通じた「平和教育の教育空間」をテーマに研究している。

◆ ◆ ◆

 渡邉教授は「遠い過去のように感じられる白黒写真だが、カラーにすると今と地続きになる。そんな写真が新たな対話を生み、新しい記憶を残すことに一つの意義がある」と話す。

 戦後76年。庭田さんはこれまで千枚余りのカラー化を手掛けたが、既に亡くなった写真の持ち主も少なくない。庭田さんは「今は戦争体験者から直接証言を聞ける貴重な時」と力を込める。写真集をきっかけに「戦争について話し、考えたことを今度は誰かに伝えてほしい」と話している。

(2021年8月10日朝刊掲載)

広島本大賞 AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争

年別アーカイブ