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社説・コラム

『潮流』 原爆開発の地の公園

■ヒロシマ平和メディアセンター長 金崎由美

 広島の平和記念公園は、訪れた人が原爆被害の悲惨さや平和への意思を胸に刻む地だろう。では、米国内の原爆開発ゆかりの地の公園はどうか。「対日戦争を終結させた象徴」として思い起こす人がいるかもしれない。科学技術の金字塔、と誇る米世論も根強い。

 2015年、原爆を開発した「マンハッタン計画」の拠点だったロスアラモスなど3地域の遺構や跡地が国立歴史公園に指定された。開発、使用とそれに続く核時代の歴史をどう位置付け、展示説明などに盛り込むかが問われる。原爆の賛美や使用の正当化とも隣り合わせ。被害を直視した内容にするよう、被爆地から再三問い掛けがされた。

 公園整備を所管する米国立公園局は先月、被爆者と支援者らに参加を募り、体験証言や意見を聞くオンライン会議を開いた。シカゴ・デュポール大准教授で広島市出身の被爆2世、宮本ゆきさんたちが「被爆者の声を踏まえるべきだ」と求めたのがきっかけだった。

 カナダ在住の被爆者サーロー節子さんを誘って参加した。議論の内容は明かさず、録音もしないという条件。ただ、ロスアラモスなどを数回現地取材した経験から、会議の後に自分自身があらためて思い至ったことは記しておきたい。

 当局や公園化を推進した団体は、「多面的な展示」を表明している。核兵器は今年の禁止条約発効により、国際法上の違法兵器という烙印(らくいん)を押された。15年当時からの決定的な変化だ。仮に国立公園局が被爆者の声に動かされても、公園整備でどこまで前面に出せるか。実際に指定施設を所有するのは、核弾頭の維持管理を担うエネルギー省の核安全保障局。両者の力関係は一目瞭然だ。

 政府が「原爆」をどう次世代に語り継ぐかに被爆地は注目している―。原爆使用国に繰り返し発信することが重要であり続ける。

(2021年8月12日朝刊掲載)

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