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社説・コラム

社説 アフガン首都陥落 人道の危機 監視強めよ

 アフガニスタンの反政府武装勢力タリバンが首都カブールを制圧した。選挙で選ばれたガニ大統領は国外に脱出し、米国が主導して支えてきた民主政権があっけなく瓦解(がかい)した。

 過激なイスラム原理主義の思想を持つタリバンの復権で、恐怖による政治が再来する懸念がある。地域を不安定化させ、再びアフガンが国際的なテロ組織の温床になりかねない。深刻な事態だ。

 武力による政権奪取は認めるわけにはいかない。アフガンの混迷を収束させるためにも、国際社会は連携してタリバンに対する圧力を強め、国連を通じて和平の枠組みを立て直さなければならない。

 米国は2001年の米中枢同時テロを受け、首謀者らをかくまっているとして当時、タリバンが支配していたアフガンに軍事介入し、政権を打倒した。

 それ以降、米軍が駐留してきたが、バイデン大統領は今年4月に「永遠に続く戦争を終わらせる」として、同時テロから20年の節目となる9月11日までの撤退を表明。その後、8月末までに前倒しした。

 米軍の撤退に伴い、力の空白が生じた可能性は高い。バイデン氏はタリバンよりも政府軍の数が多いとして首都防衛などに自信を示していたが、見通しが甘すぎたと言わざるを得ない。

 無秩序な形のまま期限ありきの撤退を急ぎ、タリバンの復権を許した米国の責任は極めて重大である。

 バイデン氏は「米軍の任務は国造りではなく、テロ対策だ」と撤退の正当化を強調したが、説得力はない。そもそもタリバンを武力で抑え込もうとしたことに無理があったのではないか。人権尊重を掲げながら、このままアフガンの人々を見捨てては、米国の威信に大きな傷を残すことになる。

 タリバンは国際社会からの孤立を望んでいないとしている。「女性の権利を尊重する」「外国人とその関係者の安全を守る」とも強調しているが、言葉通りには受け取れまい。

 かつての統治時代には、イスラム原理主義に基づき、民主主義の否定や女性への教育や就労を禁じるなど、深刻な人権上の問題を起こしていた。偶像崇拝を否定し、アフガン中部のバーミヤン遺跡の大仏を破壊し、国際的な非難を浴びた。こうした過激な政策や行動に再び戻らせてはならない。

 国連安全保障理事会は16日、緊急会合を開き、「すべての敵対行為をすぐに停止し、包括的な交渉を通じて新しい政府を樹立することを求める」とする報道声明を出した。

 米国と中国、ロシアの3大国は多くの問題で対立しているが、アフガン情勢の悪化を望んでいない点では一致しているはずだ。パキスタンやイランなど周辺国とも協力し、アフガンのさまざまな勢力が参加する形での政権の実現を、タリバンに迫るべきだ。

 日本も果たすべき役割は多い。02年と12年にはアフガン支援国会合を開き、元兵士の職業訓練や警察の支援など地域の安定化につながる支援にも取り組んできた。テロの根源は各地で続く紛争や貧困、格差である。人道危機を避けるためにも、地域全体の発展につながる支援に乗り出すべきだ。

(2021年8月18日朝刊掲載)

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