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[ヒロシマの空白 被爆76年 証しを残す] 輜重隊遺構一部移設へ サカスタ予定地 広島市が決定

 サッカースタジアム建設予定地の中央公園広場(広島市中区)で出土した旧陸軍の輸送部隊「中国軍管区輜重(しちょう)兵補充隊(輜重隊)」施設の被爆遺構で、市は17日、3カ所を切り取って移設すると発表した。軍馬が戦地での物資輸送に重要な役割を果たした歴史を踏まえて、厩舎(きゅうしゃ)の床面の一部などを対象にする。切り取りと残る遺構の撤去作業は、早ければ23日に着手する。(水川恭輔)

 3カ所は、スタジアムのピッチの予定地を挟んで東側に2カ所、西側に1カ所ある。東側は馬の手入れ場の石畳12枚分(1枚0・9メートル×0・4メートル)と厩舎のアスファルトの床面(1・5メートル×4・0メートル)、西側は厩舎入り口の石畳25枚分(1枚1・0メートル×0・5メートル)。面積は合計23平方メートルで、調査している6千平方メートルの0・4パーセントに当たる。

 市によると7月下旬以降、市文化財審議会の委員10人のうち7人に順次、非公開で現地を見てもらい、切り取る部分の助言を受けた。3カ所の移設先とその後の活用策は、本年度中に決めるという。市文化振興課は「戦前の広島の姿の一端を広く知ってもらう形にしたい」と説明する。

 一方、二つの広島県被団協を含む被爆者6団体や平和団体は、市に対して、専門家や被爆者、市民の声を公開の場などで広く聞き、対応を決めるよう要望してきた。広島被爆者団体連絡会議の田中聡司事務局長(77)は「被爆都市の重要な遺構の今後の方針が、要望を軽視したまま示され、遺憾だ」と語った。

 市は昨年10月、スタジアム建設で掘り起こす地中の現状を記録しておくため、現地の発掘調査を始めた。その結果、輜重隊の被爆遺構が見つかり、松井一実市長は今年7月、一部を移設する方針を示していた。

(2021年8月18日朝刊掲載)

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