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描き続けた生の輝き 愚かさ 廿日市で宇佐川良さん追悼展

 昨年11月に89歳で死去した画家宇佐川良さんの追悼展が、出身地の廿日市市にあるアートギャラリーミヤウチで開かれている。広島で入市被爆後に画家を志し、精力的に創作し続けた画業をたどる30点。命の尊さと人間の愚かさを見つめた作品群が、見る者を引き付ける。

 8月6日の原爆投下の直後、国鉄職員だった宇佐川さんは復旧作業のため宮島口(現廿日市市)から広島市に入り、壊滅した街を目の当たりにした。遺体を焼く仕事も経験した。大勢の命が失われた惨状は、後に生命の輝きを伝える作風へと駆り立てる。大調和会を中心に活躍し、90回近く個展を開いた。

 「生命讃歌 No.1」(2001年)は、牧場を営む家族に焦点を当てたシリーズの一作。牛や犬に囲まれ、寄り添う家族は牧歌的なモチーフでありながら、赤や黄の原色を多用した構成が力強い。生命そのもののエネルギーが見る者に迫ってくるようだ。

 一方、「雨の詩(うた)」シリーズは、画面を淡い色彩が覆い、物悲しさが漂う。傘を差して歩く人々の後ろ姿はおぼろげで、等しく死へ向かっているようでもある。同ギャラリーの今井みはる学芸員は「いずれ死を迎える運命は同じなのに、欲や妄執から心の闇を生んでしまう人間の悲しさがにじむ」と話す。

 宇佐川さんがアトリエを構えた広島県北広島町の山里などを描いた風景画も紹介する。これらの絵の中の集落や民家には人けがない。人間にうち捨てられ、朽ちゆく気配が漂う。画家にとっては風景も、人の身勝手さや愚かさを映す鏡だったのかもしれない。

 展示は29日まで。火、水曜休館。(福田彩乃)

(2021年8月19日朝刊掲載)

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