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放影研が外部諮問委 被爆2世のゲノム解析巡り議論 研究計画に反映へ

 放射線影響研究所(放影研、広島市南区)が被爆2世のゲノム(全遺伝情報)解析に向けた外部諮問委員会を設置し、21、25の両日に初会合を開いた。今後、遺伝情報の取り扱いや研究の進め方について被爆2世や被爆者、外部の有識者が議論を重ね、提言をまとめる。放影研は提言を研究計画に反映させる方針だ。(小林可奈)

 ゲノム解析は被爆者の親と配偶者、子どもの3者の全ての遺伝子を詳しく調べ、1945年に広島へ投下された原爆の放射線による遺伝子への傷などの有無や程度を調べる。

 諮問委は広島と長崎の被爆者や被爆2世、法律や生命科学の専門家たち14人で構成。片峰茂・前長崎大学長が委員長を務める。2日間の会合は非公開でオンラインで開いた。25日の会合終了後、片峰委員長や放影研の丹羽太貫(おおつら)理事長がオンラインで記者会見した。

 片峰委員長によると、会合では放影研側から研究の構想について説明を受け、研究の目的や手法、社会的な影響について意見を交わした。委員からは、遺伝情報の慎重な取り扱いを求める意見のほか、遺伝的影響が解明されることへの期待や、研究結果が被爆2世に与える影響について不安の声が上がった。

 片峰委員長は「遺伝的な影響の有無という長年の疑問に一定の決着を示せる可能性がある。遺伝情報の取り扱い、社会的な影響も含め、非常に重い研究だ。透明性を確保しながら、慎重に議論する必要がある」と述べた。

 丹羽理事長は「積み残してきた課題であり、ぜひ取り組みたい。まずは関係者の意見を聴く必要がある。(研究開始は)決定とまでは言明できない」と説明。研究の着手時期にも触れなかった。  諮問委は今後、4、5回をめどに会合を重ね、提言をまとめる見通し。

【解説】欠かせぬ配慮と透明性
 被爆2世のゲノム解析を見据え、放射線影響研究所(放影研)が設置した外部諮問委員会の議論が始まった。長年の課題である原爆放射線の遺伝的な影響の解明が期待される一方、「究極の個人情報」といわれる遺伝情報を解読する研究となる。極めて慎重な取り扱いに加え、研究の目的や意義の丁寧な説明が欠かせない。

 放影研はこれまで、被爆2世の集団を追跡する手法を軸に、死亡率や病気の発症率を調べてきた。現段階で放射線の遺伝的影響は確認されていないが、手法の限界から「影響はない」とも言い切れないのが現状だ。科学の進歩で可能となったゲノム解析で、より踏み込んだ実態解明の可能性があると期待されている。

 一方で対象者の同意をどう得ていくのかや、データの管理体制が厳しく問われる。被爆2世は健康不安だけでなく、結婚や就職で差別に遭うケースがあり、親の被爆を周囲に明かしていない人もいる。研究がもたらす社会的な影響や心理面への配慮が求められる。

 放影研が諮問委の意見を重視する背景には、前身の原爆傷害調査委員会(ABCC)時代の調査を巡り、「治療より調査を優先させた」などと厳しい批判を受けてきた過去の経緯がある。放影研は、調査対象である被爆2世たちも加わる諮問委で、研究に関する課題の洗い出しなどを進める。研究の計画段階から慎重に意見を聴き、被爆2世や地域の納得を得ながら取り組む考えだ。

 諮問委の初会合は非公開だった。終了後の記者会見も約30分に限られた。今後、諮問委でどのような課題が議論され、研究計画にどう反映されていくのか。透明性の高い進め方が求められる。(小林可奈)

ゲノム解析
 親から子に受け継がれた遺伝情報を網羅的に調べ、発病のメカニズムなどを探る研究。被爆2世のゲノム解析では、親の被爆者と配偶者、子どもの3者から提供された血液試料を基に、放射線が及ぼす遺伝的な影響を調べる。

放射線影響研究所(放影研)
 原爆放射線の長期的な影響を調査するため、1947年に設立された原爆傷害調査委員会(ABCC)が前身。その後、広島、長崎を拠点に被爆者たち約12万人を対象に調査を開始。75年に放影研に改組し、日米両政府が共同出資して運営する。被爆者のがん発生率や、がんによる死亡率と放射線量との関連などを調査。被爆2世は約7万7千人を対象にした、がん発生率と死亡率の調査なども続けている。

(2021年8月26日朝刊掲載)

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