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社説・コラム

[ずばり聞かせて] 核廃絶合意どう実現 HOPe 島田久仁彦プリンシパル・ディレクター

保有国に促す「解」探る

 広島県が、2030年までに核兵器廃絶の国際合意を結ぶという「ひろしまイニシアチブ」を推し進めている。推進母体として4月に「へいわ創造機構ひろしま(HOPe)」を設立し、まとめ役の「プリンシパル・ディレクター」に島田久仁彦氏(46)=東京都=を迎えた。「国際交渉人」の実績を持つ島田氏は、持続可能な開発目標(SDGs)に代わる国連の次期目標に「核兵器のない世界」を組み込む構想を描く。オンラインで意気込みを聞いた。(宮野史康)

  ―自らの役割をどう考えていますか。
 安全保障に関わる核兵器の廃絶と、持続可能な未来という二つの線をつなぎ合わせたい。国連では紛争調停官として、安全保障の国際交渉に携わった。日本政府の首席交渉官として、気候変動や再生可能エネルギーなど持続可能性の議論もしてきた。両分野を知っており、どう表現すれば相手の心に刺さるか分かっている。橋渡しをしたい。

  ―核兵器廃絶の国際合意を30年までに実現するのは容易ではありません。
 国連のSDGsは30年に期限を迎える。ポストSDGsとして、「国連発足、原爆投下100年となる45年までに、核兵器のない世界を達成する」という目標を位置付けたい。交渉は25年ごろに本格化する。それまでに核兵器廃絶は持続可能な社会に欠かせないと、各国の交渉官や担当官に意識付けたい。

 何かの間違い、偶発的な衝突をきっかけに核戦争は起こりうる。核兵器は一瞬で人生を奪う。世界を破壊する可能性がある。こうした恐怖のもとにある抑止力と安定は、決して持続可能なものではないという考えを刷り込んでいく。

  ―米国をはじめ、核兵器保有国を説得できますか。
 どう議論を持っていけば核保有国が核廃絶を進める側のエンジンに変わるのか。その解を探すのが、まずは大きな宿題だ。それは彼ら自身が考えなければならない。交渉戦術の一つとして「クリエーティブな丸投げ」がある。こちらが達成したい点を明確にした上で「どうすればできるか」と逆に聞いてみる。向こうが解を見つける手助けをするのが一つのやり方だ。

 国連の紛争調停官は、当事者たちが振り上げた拳を下げるきっかけをつくるのが仕事だ。「自分から言い出せないが、こういう働き掛け、問い掛けをしてくれたら、こう答えられる。動きやすくなる」と明かしてもらえば、ある程度、道は見えてくる。

  ―県のこれまでの取り組みに課題はありますか。
 県外の人に自分ごととして捉えてもらう仕掛けづくりや、他県、他国を巻き込むやり方が必要だ。HOPeの事業も広島という土地柄に結び付けるだけではなく、いい意味でうまく羽ばたけばいい。

 ≪略歴≫米ジョンズ・ホプキンズ大高等国際問題研究大学院修士課程修了。国連で紛争調停に従事し、環境省では気候変動問題の交渉に当たった。現在は各国政府や企業に交渉、危機管理の助言をする会社の社長を務める。専門は安全保障、環境・エネルギー問題。大阪府松原市出身。

へいわ創造機構ひろしま(HOPe)
 「ひろしまイニシアチブ」を推進する組織として、核兵器廃絶を実現する情報発信や、核抑止に代わる安全保障の研究、廃絶に貢献する人材の育成を担う。広島県内の6大学や国連訓練調査研究所(ユニタール)広島事務所(広島市中区)でつくる「ひろしま平和推進ネットワーク協議会」を発展させ、4月に20団体で発足した。事務局は県平和推進プロジェクト・チームが担う。

(2021年8月28日朝刊掲載)

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