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社説・コラム

『書評』 児玉源太郎の台湾時代に光 前周南市長・木村さん 評伝出版

 前周南市長の木村健一郎さん(69)が、同市出身の軍人で政治家の児玉源太郎(1852~1906年)を論じた評伝「台湾を目覚めさせた男 児玉源太郎」を出版した。日露戦争を勝利に導いたことに光が当たりがちだが、本書では台湾の近代化に尽くした内政家の児玉の姿を捉える。

 1898~1906年に台湾総督だった児玉が、治安を安定させ、鉄道や道路などインフラ、教育制度を充実させたと紹介。「児玉源太郎がいなかったら、今の台湾はありません。台湾の恩人です」と、台湾の発展に貢献したことを故李登輝総統の言葉を引いて訴えた。民間交流で出会った李氏から木村さんが掛けられた言葉だ。

 本書の半分を台湾時代に充て、生まれ育った徳山(現周南市)を記述した「生い立ち編」「日露戦争編」など5章で構成。資料集なども添えた。

 木村さんは3期目を狙った周南市長選に敗れた後の2019年秋ごろ、児玉について書きたいと思うようになった。80点以上の資料を読み返し、彼が幼少期に過ごした地域も歩いた。台湾時代を詳しく書いた本が少ないことも書くことを後押しした。「名誉や権力を求めず、バランス感覚に優れた人物。その存在を知る人が年々少なくなる今こそ、知らせるべきだ」とペンを執った。

 日露戦争の勝利が「後の過度な軍拡や昭和の陸軍の暴走につながった」との見方がある中、首相にも擬せられた児玉が「もう10年生きていれば変わっていたかも」と言う。それでも本書の最後には「児玉が去った後の歴史を知れば知るほど、ないものねだりをしたくなる。だが歴史には『イフ』は持ち込めない」とも記した。

 四六判。304ページ。1870円。発行の梓書院☎092(643)7075。(中井幹夫)

児玉源太郎
 徳山藩士の子として生まれ、戊辰戦争に出陣した後、明治政府の軍人となった。陸軍大学校長、陸軍次官などを経て1898年に台湾総督。在任中に陸軍、内務、文部大臣を兼務した。1904年からの日露戦争では台湾総督のまま、満州軍総参謀長として作戦を立案、指揮した。

(2021年8月29日朝刊掲載)

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