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社説・コラム

[被爆75年 世界の報道を振り返る] スペイン 原爆非難 豊富な記事量

水爆搭載機の墜落事故 影響

■ハビエル・サウラス マドリード在住ジャーナリスト

 被爆国日本に次ぐ圧倒的な記事量だったと言っていい。昨年の被爆75年の節目を、スペイン国内の主要紙は大々的に報じた。しかも、原爆を指弾する論調は強い表現を伴う。

 保守系、中道左派など政治志向を問わず、各紙とも原爆使用とその結末を「ホロコースト(ユダヤ人虐殺)」「ジェノサイド(大量殺害)」「皆殺し」などと非難していることが分かる。「戦争終結につながった」と肯定する記事は、英国の軍事歴史家による論評一本だけだった。

 ヒロシマとナガサキこそ世界が受け継ぐべき人類の教訓、とする意識は強い。エルムンドは2020年8月2日、「広島、それに続く長崎への原爆投下は…20世紀の最も悲痛なできごとの一つであり、その教訓は今なお重要であり続ける。しかし、学ばれていない」と冒頭に記し、実に12ページにわたる特集を組んだ。

 被害者の目線に立ち、人生の歩みに注目した記事も多かった。多くが被爆者の小倉桂子さんがフォーリンプレスセンター主催のオンライン記者会見で語った内容を基にしていた。エルパイースのオピニオン記事は「私たちが生きている間に核兵器が廃絶される日をみたい」との小倉さんのコメントを掲載した。

 スペインは、核抑止を安全保障の根幹に据える北大西洋条約機構(NATO)の加盟国。国内での広島と長崎に対する強い関心は意外に思われるかもしれないが、理由がある。

 1966年1月、4発の水爆を搭載した米軍の戦略爆撃機がスペイン南部の村パロマレスの沖合で墜落。1発が海底に沈み、2発は地上で破裂して深刻なプルトニウム汚染を引き起こした。スペイン人の間に重くのしかかっている記憶だ。

 NATOに加盟する6カ国を対象に実施された最近の世論調査によると、自国の核兵器禁止条約への参加を支持する、と答えたのがスペインは89%で最も高かった。その一方で、政府が条約に参加する兆しは見えないのが現実だ。

(2021年8月30日朝刊掲載)

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