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社説・コラム

社説 防衛費概算要求 専守防衛の原点に戻れ

 防衛省はきのう2022年度予算の概算要求を5兆4797億円と決めた。海軍力増強を進める中国への対応を軸に南西諸島の防衛力を中心に強化する。

 認められれば10年連続の増額となり、過去最高の21年度当初予算を1千億円近く上回る。約2千億円の米軍再編関連経費などは額を示さないまま別枠化しており、年末の予算編成時には総額が国内総生産(GDP)1%枠を突破する恐れもある。

 世界では新型コロナウイルスの感染拡大にもかかわらず、景気拡大を織り込んで、軍事費を増大する傾向が強まっている。だからといって、日本が歯止めなく防衛費を膨張させ続けることは許されるものではない。

 中国の軍備拡大は、それでも目に余る。21年の国防費は日本の4倍以上の約22兆6千億円にまで膨らんでいる。

 これに対応するため、概算要求では、沖縄県石垣島に地対空・地対艦ミサイル部隊を新設。島しょ部へ弾薬や燃料を運ぶ輸送艦船2隻を購入する。装備品の研究開発に過去最高の3千億円以上を盛り込んだ。

 高度な装備品の購入費用を次年度以降に回す金額も、過去最大の約2兆8千億円に膨れる見通しだ。政府はさらに予算を増やすため、19~23年度の中期防衛力整備計画(中期防)を前倒しして改定する方向という。

 とはいえ日本の原則はあくまで専守防衛である。同盟国である米国の意向に引きずられ、過剰反応しているのではないか。

 例えば地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」計画の代替策になる「イージス・システム搭載艦」。レーダー改修費58億円を計上したが、陸上に設けるための施設を洋上の船舶に載せるのは無理がある。そもそも導入を決めた時から米国に押し付けられた印象が否定できない。導入に数年かかることも考えれば、必要性の有無から見直さなければなるまい。

 コロナ禍で日本の財政は逼迫(ひっぱく)している。防衛予算は聖域ではない。国民の生活を優先し、使い道をもっと精査すべきだ。

 日本は長く防衛費をGDP比1%以内に収める方針を堅持してきた。1976年に三木武夫内閣が閣議決定して以降、中曽根康弘内閣の87~89年度と、リーマン・ショックでGDPが大幅に落ち込んだ後の10年度以外は維持してきた。

 1%枠は、日本が再び軍事大国化を目指さない意思として、国民だけではなく、アジア諸国に向けて発信してきた経緯がある。岸信夫防衛相はこだわらない姿勢だが、その重みを軽視してはなるまい。

 日本の防衛費は推計で世界9位。決して少なくはない。北朝鮮と休戦中で軍事的な緊張感の強い韓国よりも多い。

 日本は戦後、他国に侵略した反省から平和国家の道を歩んできた。歯止めもないまま防衛費を増額し続けることは、その道に逆行している。専守防衛の原点がかすみかねない。

 呉市が母港の護衛艦「かが」にはステルス戦闘機F35Bが搭載される。戦闘機を載せて海外に出ていくようになれば、事実上の空母化と言えよう。専守防衛の日本に必要だろうか。

 対立があっても、軍事力を競い合うのではなく、対話で解決を図るべきだ。それを日本は決して忘れてはならない。

(2021年9月1日朝刊掲載)

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