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社説・コラム

社説 アフガン混迷 国際社会は関与続けよ

 米軍がアフガニスタンから撤退し、米国史上最長といわれる戦争が終わった。というよりむしろ、なりふり構わず無理に終わらせた感じだろうか。

 「力の空白」が生じて、アフガンは混迷状態に陥っている。イスラム主義組織タリバンが復権したものの、敵対する過激派組織「イスラム国」(IS)系勢力が自爆テロを起こすなど、先々の安定は全く見通せない。

 タリバンには苦い記憶がある。かつての政権担当時、イスラム法を極端に解釈して女性をはじめ人権を侵害し、文化財を破壊した。今回、柔軟なイメージを打ち出したが、どこまで信頼できるか。民族音楽の歌手を射殺したと報じられるなど、既に地金を現しつつあるようだ。

 アフガンの先行きが危ういからこそ、国際社会の役割は重い。米国はもちろん、日本も見捨てることなく、住民の安全や人権を守るため、関与を続けていかなければならない。

 米軍の撤退自体は、米国民の多くの支持を得ているようだ。戦費を2兆3千億ドル(約250兆円)もつぎ込み、2400人を上回る犠牲者を出した。戦争疲れが国民に広がるとともに、早期撤退を求める声が高まってきたのも無理はなかろう。

 ただ撤退で混乱を招いた。米軍撤退後も最低数カ月は持つと予想していたアフガン政府があっさり崩壊したのは、見通しが甘過ぎた証しだろう。

 そのため、出国を希望する人を全て国外に連れ出すことはできなかった。100人を超す米国人に加え、政府職員や米国に協力していたアフガン人たちである。タリバンの復権で身の危険を感じている人も多い。明らかな失策で、その責任は重い。

 退避計画の失敗は日本の方が深刻かもしれない。10万を超す人を出国させた米国に対し、日本が運んだのは、日本人1人と米国からの要請によるアフガン人14人だけ。日本大使館や国際協力機構(JICA)のアフガン人職員と、その家族合わせて約500人は、出国を望んでいたのに残された。

 なぜ、これほど多く取り残したのか。政府は当初、民間チャーター機で出国させる計画だったが、首都カブール陥落など情勢の変化に対応できなかった。

 タリバンの動向など正確な情報を把握できていたのか。現地の危機感は外務省本庁にきちんと伝わっていたのか。政権としての意思決定に遅れはなかったのか…。あらゆる角度から今回の失敗を検証して、教訓としなければならない。

 もちろん、残された500人の支援も忘れてはならない。今後は外交努力を通じて、出国できるようにするという。当然だろう。難民として受け入れ、日本で暮らす場合の生活支援などの準備も整えておきたい。

 タリバンは今、新たな政権づくりを急いでいる。ただ例えば金融や経済の専門家は少なく、うまく国家を運営できるか課題は山積している。経済が混迷すれば国民は困窮しかねない。

 アフガンの財政の6割以上は国際社会からの援助だったという。国際社会の理解や協力がないと、新政権ができても立ちゆかなくなる恐れがある。

 再びテロの温床にならないよう、国際社会が働き掛けることができるはずだ。連携して「暴走」を防がねばならない。

(2021年9月3日朝刊掲載)

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