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「黒い雨」の苦難 映像作品に 広島経済大生3人 湯来住民に密着 「戦争や被爆 一緒に考えたい」

 原爆投下後に「黒い雨」を浴びた広島市佐伯区湯来町の住民を撮影したドキュメンタリー番組を、広島経済大生3人が作っている。黒い雨について「よく知らなかった」という学生たちが、内部被曝(ひばく)による健康被害を訴えながら国の支援から外れた長年の苦難に耳を傾け、映像を紡ぐ。「戦争や被爆を遠くに感じている若い世代と一緒に考える作品にしたい」との思いを込める。(栾暁雨)

 3人はメディアビジネス学科の3年生。ディレクターを西野真李花さん(20)=廿日市市、カメラマンを奥原芽衣子さん(20)=安佐南区=と梶岡尚大(なおと)さん(21)=同=が務める。

 授業や「黒い雨」訴訟に関する報道に触れ、雨を浴びたのに降雨地域の線引きによって被爆者と認められていない人がいることにショックを受けた。理不尽な国の制度への疑問が番組作りの原動力だ。

 証言をまとめて事実を掘り起こそうと2月から原告団メンバーへの取材を進める。水内川を境に大雨地域と小雨地域に分けられた湯来町を中心に撮影し、原告団長の高野正明さん(83)の元に10回以上通って話を聞いた。

 国民学校からの帰宅中に土砂降りの雨を浴びた高野さんは、高熱や下痢の症状が出て、後年にはがんと白内障も患った。映像では、当時は「短命村」と呼ばれていたことや火葬場がフル稼働だったことを語り、「それでもずっと被爆者と認められず中傷も受けた」と悔しさをにじませる。

 他のメンバーにも聞き取りを重ね、病気や差別に苦しんだ年月を浮き彫りにした。7月、広島高裁であった勝訴判決では、76年後にようやく「被爆者」認定された喜びの表情を捉えた。

 120時間に上る映像は20分ほどの番組にまとめ、11月にある全国コンクールへの出品を目指す。「被害に遭った多くの人が自分の祖父母と同じ80代前後。戦争を身近に感じた」という3人。「相手の本音を引き出す苦労はあったけど、話を聞いて事実を積み重ね、記憶を引き継ぎたい」と力を込める。

(2021年9月6日朝刊掲載)

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