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小磯良平 「道」に込めた思い 50年広島平和祭中止で「幻のポスター」 制作背景探り一冊に

 洋画壇の巨匠小磯良平(1903~88年)が、50年に開催される予定だった平和祭(現平和記念式典)のために描いたポスターがある。平和祭は朝鮮戦争の勃発で中止となったため、「幻のポスター」と呼ばれる。所蔵する大野ギャラリー(広島市中区西白島町)の笠岡めぐみ学芸員が制作の背景を研究し、本にまとめた。(福田彩乃)

 書名は「1950 HIROSHIMA 小磯良平 幻のポスターの謎」。平和都市として復興する戦後広島の歩みをたどりながら、小磯がポスターを描いた経緯やモチーフに込めた意味合いを探る。

 ポスターは、街路樹の並ぶマッカーサー道路(現鯉城通り)の上に、青空と雲が広がる構図。空に「LET’S BUILD FOR PEACE」の標語が浮かぶ。第4回平和祭を告知するため、世界各国に送られた。しかし平和祭は開催に至らず、幻のポスターとなる。

 小磯といえば優美な女性画で知られるが、なぜこの道路を画題に選んだのか。笠岡学芸員はこの謎に着目し、当時の広島の都市計画や平和宣言を基に考察した。

 マッカーサー道路は元軍用地を貫く形で戦後いち早く完成した。笠岡学芸員は「軍都から平和都市へ広島の転換を象徴する場だったのでは」と推察する。当時としては珍しかった緑地帯を備え、希望や復興もイメージさせたとみる。平和大通りの開通はポスター制作後の65年だった。

 小磯と広島のつながりについてもつづる。小磯は、美術会派や美術教員の講習会の講師として度々、広島を訪れていた。第2回平和祭(48年)の平和美術展に出品したことにも触れ、広島にゆかりのある画家だったと説明する。

 本書ではデザイナー今竹七郎(1905~2000年)が描いた第3回平和祭(49年)のポスターや、同年に制定された広島平和記念都市建設法の記念スタンプなども紹介。笠岡学芸員は「戦後間もない時期、芸術家たちがいかに平和を表現したか、光を当てる機会になれば」と話す。

 A5判、48ページ。出版元のしおまち書房のホームページなどで販売している。1100円。大野ギャラリーは小磯の油絵や版画など約350点を所蔵。ポスターは館内で常設展示している(水曜のみ開館)。

(2021年9月10日朝刊掲載)

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