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『核兵器はなくせる』 NPT準備委 「勧告」採択見送り 議題決め閉会

■ヒロシマ平和メディアセンター編集部長 江種則貴(ニューヨーク発)

 国連本部での核拡散防止条約(NPT)再検討会議の第三回準備委員会は最終日の15日午後、来年の再検討会議の議題や日程を盛り込んだ最終文書を全会一致で採択し、2週間の会期を終えて閉会した。焦点となっていた再検討会議への勧告は採択を見送った。

 閉会後に記者会見した日本の樽井澄夫軍縮大使は「議題などに合意し、最大の課題は克服した。来年に向け準備委の役割を十分に果たした」と述べた。

 勧告の採択を見送ったのは、「決裂」を避けたい多くの加盟国の意向が働いたため。ボニフェース・シディアスシク議長が示した草案をめぐる各国の調整は最終日午前中まで続き、深刻な意見対立も表面化しなかったものの、最終合意には至らなかった。このため、草案をめぐり討議した記録だけを残すことにより、準備委全体が失敗とみなされる事態をあえて回避した形だ。

 一方、準備委が採択した来年の再検討会議の議題は計20項目。核兵器廃絶の「明確な約束」が盛り込まれた前々回(2000年)の会議の最終文書を考慮する、との文言を盛り込んだ。前回(2005年)の会議が議題をめぐって空転し、結局は失敗に終わった経過もあり、次回の議題で早々と合意したことが今回の準備委の最大の成果となった。

 来年の再検討会議は5月3日から28日まで国連本部で開催。議長候補として今回の準備委は、フィリピンのリブラン・カバクトゥラン駐アラブ首長国連邦大使を指名した。


<解説>「オバマ効果」決裂回避

■ヒロシマ平和メディアセンター編集部長 江種則貴(ニューヨーク発)

 来年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議への「勧告」を採択できずに閉幕した第三回準備委員会の評価は難しい。討議の舞台となった米国の核政策が今後着実に変化するとの期待も込め、ここはあえて「一歩前進」と前向きに位置づけたい。

 今回の準備委の「陰の主役」はオバマ米大統領だろう。ロシアと新たな核軍縮条約交渉に着手し、包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期批准への努力を約束。4月にはチェコのプラハで演説し「核兵器のない世界を目指す」と明言した。

 米国の姿勢変化は準備委の議場に「追い風」となって吹いた。核兵器国の軍縮努力が不足していると非難してきた非核兵器国の多くが今回、プラハ演説の評価や実現への期待を口にする場面が目立った。そうした全体の雰囲気が来年の再検討会議の議題をめぐる早期合意をもたらし、核軍縮への前向きなムードを壊したくないとの思いが「勧告」をめぐる決裂回避にもつながったと言える。

 しかし、「オバマ効果」は危うい側面も併せ持つ。米国の姿勢変化の具体化はこれから。核戦略の基本である「核体制の見直し」をどう国防総省がまとめるか、事実上の核保有国でNPT未加盟のイスラエルへの対応など中東の問題にどう向き合うか-。今後の状況次第で期待はたちまち落胆に変わり、逆風にもなりかねない。

 あと1年と迫った次回の再検討会議で、核兵器廃絶への道筋を明確に描くことができるかどうか。その鍵を核超大国が握る事態は被爆地からすれば不本意ではあるが、核廃絶に向け監視や奨励を続けるしかないだろう。その意味で、今年10月に広島で最終会合を開く核不拡散・核軍縮に関する国際委員会(ICNND)も含め、向こう1年間の廃絶関連の着実な取り組みもまた重要な鍵となる。

(2009年5月17日朝刊掲載)

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