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社説・コラム

社説 米中枢同時テロ20年 暴力の応酬 加速させた

 世界に衝撃を与えた米中枢同時テロの発生からきょう20年となる。事件を機に、米国は「テロとの戦い」を掲げ、アフガニスタンとイラクで戦争に踏み切ったが、おびただしい犠牲を出した末に今年8月、アフガンからの撤退を余儀なくされた。

 軍事力を投入し、民主的な国家をつくるという試みは失敗に終わった。迷走を続けた20年間で、超大国の威信は失墜し、テロの脅威も残ったままだ。

 米国はもちろん、追随した日本など多くの国もアフガンでの失敗を直視する必要がある。軍事力でない形で、混迷するアフガンの安定に関与すべきだ。

 2001年9月11日、4機の旅客機がハイジャックされ、米ニューヨークの世界貿易センタービルやワシントン郊外の国防総省などに相次いで突入した。

 国際テロ組織アルカイダによる前代未聞の凶行で、日本人を含む約3千人が犠牲になった。市民を巻き込んだ無差別テロは卑劣極まりない行為で、決して許すことはできない。

 当時のブッシュ政権は同時テロの報復としてアルカイダの拠点のあったアフガンへ侵攻し、統治していたイスラム主義勢力タリバンの政権を排除した。さらに「アルカイダ支援の疑い」と「大量破壊兵器の拡散防止」を理由に、03年にはイラクも攻撃し、フセイン政権を倒した。

 両国では、テロの根絶と民主化を目指して米軍を駐留させ、新政権を樹立した。ところが腐敗と汚職が続き、治安のさらなる悪化を招いた。

 混乱が続く中で、世界中からイスラム過激派が「聖戦(ジハード)」を唱えて集結。新たな過激派組織「イスラム国」(IS)が生まれ、アフガンでもタリバンが息を吹き返した。

 テロの脅威は中東からアフリカや南アジアなどへ広がり、欧米でも激化している。

 軍事力ではテロを封じ込めることはできないと言うことだろう。力の行使が反米感情をあおり、暴力の応酬を加速させたのではないか。

 米国はアフガン、イラクの戦争に約6兆4千億ドル(約700兆円)を投じ、米兵の死者数は約7千人に上る。さらに現地では、これまでに数十万人の人々が命を落としたとされる。失ったものはあまりにも大きい。

 泥沼の戦いを続けた20年の間に、米国では経済格差や人種間の対立が顕在化し、社会の分断が進んだ。トランプ現象で法の支配や人権の原則さえも揺らぐ。他国へ民主主義の範を垂れる資格も失ったように映る。

 国際社会で米国の指導力が低下した一方で、中国の存在感と影響力は急速に拡大した。米中対立のはざまに位置する日本を取り巻く環境は厳しさを増している。日本も20年間のアフガンやイラクでの活動を検証し、米国の要請に応じるだけの国際貢献の在り方を見直したい。

 アフガンではタリバンが暫定政権を始動させたが、政情の安定には程遠く、再びテロの温床となる懸念も高まっている。

 戦よりも食糧自給―。アフガンで地元住民とともに用水路建設に奔走しながら凶弾に倒れた中村哲さんの言葉である。テロをなくすためには、その土壌となる飢えや貧困、差別、格差を減らす取り組みが欠かせない。日本を含む国際社会は、粘り強く支援を続ける必要がある。

(2021年9月11日朝刊掲載)

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