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社説・コラム

『書評』 郷土の本 「還らざる聖域」 屋久島舞台に核を巡る攻防

 岩国市出身の作家樋口明雄さん(61)=山梨県=が、小説「還(かえ)らざる聖域」を刊行した。北朝鮮の部隊が屋久島に上陸して武力制圧した―という物語設定。島を守るため山中を駆け巡る登場人物たちを臨場感あふれる筆致で描いた。

 2020年代、北朝鮮でクーデターが起こり、反乱軍が勝利する。敗れた朝鮮人民軍の特殊部隊が国を離れ、屋久島を占領する。部隊は核兵器を持ち込んでおり、日本政府を揺さぶる。

 核兵器の使用を阻止するため、山岳ガイドを務める男性や警察の山岳救助隊の女性など、島の細部まで知り尽くした人々が冒険やアクションを繰り広げる。山岳小説を多く手掛ける著者ならではの書き味で、世界自然遺産でもある島の壮大な景観を描き出す。樋口さんは「山の魅力を読者に届けられるような描写を心掛けた」と語る。

 出身地の岩国市で母から広島のきのこ雲を見た経験を聞いて育ったという。「絶対悪である核の恐ろしさも伝わればいい」と話している。

 角川春樹事務所。1980円。(山田祐)

(2021年9月12日朝刊掲載)

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