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緑地帯 パレスチナに学ぶ 田浪亜央江 <1>

 100万人近いパレスチナ人が難民となり、その社会が崩壊した「ナクバ(破局)」の年から、今年で70年になる。イスラエルという「ユダヤ人国家」建設のために、先住の民が故郷を追われたのだ。かろうじて領内に組み込まれなかったヨルダン川西岸地区やガザ地区も、1967年以降、イスラエルの軍事占領下にある。

 90年代半ばからこの地域に足を運んできた筆者から見ると、状況はこの20年余りでますます悪化している。94年にパレスチナ自治政府が設立され、2012年に国連でパレスチナが「国家」と承認されたが、現実は正反対。自治区内の地域は統治方式でA、B、Cとランク分けされ、検問所や分離壁のため数キロ先の村や町に行くのも難しい。バラバラに分断され、国家としての自立など絵空事だ。

 日本でこういうことを伝えると、「私たちにできることは何でしょうか」という善意の問いが上がる。しかし現地では、パレスチナ人が自ら支え合う活動があちこちで根を張り、経済的に成功したパレスチナ人によるスケールの大きい助成基金も存在する。筆者としては、それらの活動を知るたびに圧倒され、外部から「何かしてあげる」という気持ちでは到底ついていけないと感じる。

 筆者にとってパレスチナの人々は、支援すべき対象というより、そのバイタリティーや忍耐心、人生を愛する心に強く共感しながら、多くのことを学ばせていただく相手である。(たなみ・あおえ 広島市立大准教授=広島市)

(2018年8月18日朝刊掲載)

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