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連載・特集

緑地帯 パレスチナに学ぶ 田浪亜央江 <3>

 「パレスチナの民族浄化」を書き、イスラエル社会でバッシングを受けてきた歴史家イラン・パペは、パレスチナ人の間では大変な人気がある。英国の大学に移る前、イスラエルにいた時にはいつもアラブ系の学生や市民に囲まれていた。

 イスラエルのアラブ系の人たちは、1948年のイスラエル建国時、さまざまな経緯の中で難民となることを免れ、イスラエルに残ったパレスチナ人やその子孫だ。いったん追放されたものの、夜闇に紛れて「潜入」した強者(つわもの)もいる。自分の国に戻るのに潜入者の扱いをされること自体がおかしいのだが、そこは既に「ユダヤ人の国」イスラエルになってしまったのだ。彼らは自分たちのことを「48年アラブ」と呼ぶ。

 筆者は、この「48年アラブ」に注目してきた。パレスチナ問題に強く関心を持ちながらも、それだけではどうしても「人ごと」だったのだが、住んでいた地が一方的に「ユダヤ人の国」となったせいでマイノリティーとして差別されるようになった彼らの境遇は、朝鮮半島の植民地化を背景に日本で暮らすようになった在日朝鮮人の立場と重なってくる。

 日本国家によって一方的に「日本人」扱いされ、徴兵までされながら、戦後はまたもや一方的に日本国籍を奪われ、恩給などの権利から遠ざけられた人々。この国に住む私たちは、人ごとのようにイスラエルを批判しているばかりでは済まないのである。

 そのことに気付いた時、日本でパレスチナ問題を研究する足場を見いだしたような気がした。(広島市立大准教授=広島市)

(2018年8月22日朝刊掲載)

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