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連載・特集

緑地帯 軍歌の本を書いた理由 小村公次 <1>

 もう7年前になるが、「徹底検証・日本の軍歌」(学習の友社)という本を上梓(じょうし)した。執筆の依頼はその2年前。「軍歌かぁ」というのが私の正直な気持ちだった。

 というのも、戦後生まれの私は宴席で軍歌を歌うわけではなかったし、右翼の街宣車から大音量で流れてくると、嫌悪感で耳をふさぎたくなるのが常だった。ありていに言えば、軍歌をまともな音楽とは考えていなかった。

 一方で、メロディーを聴くと歌詞がすっと出てくる軍歌があり、歌うことができるのである。この「軍歌を知っている」ことに自分自身、居心地の悪さを抱いていた。

 私が松江市内の小学校に入学したのは敗戦後の1955(昭和30)年。当然ながら学校で軍歌を習ったことはなかった。両親や姉、兄たちが家で軍歌を歌っているのを聞いたこともなかった。にもかかわらず「軍歌を知っている」私がいるのである。

 いつ、どのように私は軍歌を知り、歌えるようになったのか。軍歌に対する嫌悪感は、いつごろから抱くようになったのか。調べてみる必要があると思い、執筆を引き受けることにした。ところが、いざ準備を始めてみると、大変な難事であることが分かった。

 そもそも軍歌とは何か、軍歌を作ったのは誰で、どのようにして歌われるようになったのかといったことが、まるで分からない(知らない)のである。私は軍歌というものに、初めてまともに向き合うことになった。(おむら・こうじ 音楽評論家=千葉県)

(2018年6月1日朝刊掲載)

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