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連載・特集

緑地帯 巣山ひろみ 創作することの喜び <3>

 23年前。初めての市民文芸授賞式で出会った6名で、文芸サークルを立ち上げた。児童文学や詩の部での入選者で、当時、ほぼ20代、30代。みんな、創作に燃えていた。

 一番年若い青年が間借りしていた鍵屋の2階で、月に1度集まって、持ち寄った原稿の合評会をした。畳敷き一間の押し入れには、ぎっしりと本が詰まっていた。

 参加するからには合評してもらいたくて、毎月、作品を書いた。基礎的なひとつひとつを、メンバーから教わった。ひとの作品について、時には場の雰囲気が険悪になるのも辞せず、熱く論じる姿があって、わくわくした。

 公募ガイドで見つけた児童文学の公募に応募するのが、ひそかな楽しみになっていた。古いワープロを手に入れた。原稿を書き上げ、感熱紙を巻き込み、紙の上下をそろえて印字をはじめる。出来上がった原稿を封筒に入れ、「原稿在中」と表書きし、郵便局に走る。息を切らせながら「簡易書留でお願いします!」と差し出すのは、大抵、締め切りの日の、郵便局が閉まるぎりぎりの時間だった。

 せいいっぱいやって、あとは天にゆだねる。投函(とうかん)と同時に訪れる清々しい思い。部活に打ち込むようなこともなく過ごした中学・高校時代には、ほぼ経験してこなかった。

 だけど、三十半ばになって、遅咲きの青春ともいえる目標ができた。ともに切磋琢磨(せっさたくま)する仲間がいてこそ、熱くなれたと思う。入選通知が届くのを夢見て、ただただ、目の前の原稿を書き上げる。たまに末席にでも引っかかると心躍った。(児童文学作家=広島市)

(2020年10月7日朝刊掲載)

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