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連載・特集

緑地帯 巣山ひろみ 創作することの喜び <7>

 新聞記事から創作のヒントをもらうことがある。ここで肝心なのは、創作のヒントにするのだ! と、血眼になるのは逆効果だ。コーヒーをのみながら、さらっと目を通す。心に引っかかった記事を切り取り、ノートに張っておく。

 4年前の12月。広島市の千田小学校校庭にあった被爆樹木の記事に目がとまった。

 「枯死し、伐採した木材を利用して楽器のパンフルートに生まれ変わった」(中国新聞)  被爆樹木という言葉を知ったのも、この記事からだった。原爆を受けてなお、生き抜いた木が楽器になって、小学校の合唱隊とともに、平和のメッセージを伝える役目をするという。2年前、実際に合唱隊のコンサートを聞く機会があり、このことを本にしたいという思いがいっきに膨らんだ。

 それまで物語は自分の中で作れば良かったが、今回は取材が必要だ。しかし、小学校に取材申し込みの電話をかける勇気が出ない。本になる保証はどこにもないのに、自分はだいそれたことをしようとしているのではないか。へたれな自分がむくむくと顔を出す。しばらく迷って、電話したところ、引き受けてくださった。もうあとには引けない。覚悟を決めた。

 その後、様々な方に取材を重ねた。とくに、被爆者の方のお話には、たくさんの人に事実を知ってほしい、自分のできることで伝えるお手伝いがしたいと強く思った。その願いは今年の夏、こがしわかおりさんの絵がついて「パンフルートになった木」(少年写真新聞社)という絵本になった。(児童文学作家=広島市)

(2020年10月13日朝刊掲載)

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