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連載・特集

緑地帯 巣山ひろみ 創作することの喜び <8>

 心理学者の河合隼雄さんが文学のことを、「人間の魂に関わってくる」と言われた。「この点では、児童文学も大人の文学も何も変わりはない」と。魂に関わることならば、真剣でありたいと思う。

 「パン屋のイーストン」(出版ワークス)を書いたとき、〝ブラック企業〟という言葉を、耳にするようになっていた。就職難に若者は疲弊していた。就職できたとしても、会社に潰(つぶ)され、自殺に追い込まれたというようなニュースが、連日報道された。働くことでどうして、みんながこんなに苦しまなければならないのか。「働く」の意味をずっと考えていた。その中で、働く妖精イーストンの物語を書いた。

 書きながらいつも、自分に問いかけている。自分は本当はどう思っているのか。読者の心に届くのは、本心の言葉だと思う。

 さて、8回にわたり、自分なりの創作について書かせていただいた。仲間がいたから、コツコツと続けることができた。教え導いてくださった童話教室の先生、熱く並走してくださった編集者さん、にわかインタビュアーのわたしに真摯(しんし)に語ってくださった方たち…。おとなになってみた夢は、わたしの人生を潤してくれ、その道々での出会いが豊かにしてくれた。感謝ばかりである。

 「おもしろそう」と心惹かれることは、いくつになってからでも試してみてほしい。

 じたばたしながら暮らしているわたしを息子たちが、「好きにやってるなぁ」と思ってくれると幸いである。(児童文学作家=広島市)=おわり

(2020年10月14日朝刊掲載)

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