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社説・コラム

天風録 『背番号「10」ミサイル』

 太平洋をまたぐ弾道ミサイルの開発に躍起かと思っていたら、今度は長距離巡航ミサイルの発射実験だという。北朝鮮が1500キロも飛ばし、標的に命中させたと発表した。事実ならば、この列島の大半が射程に入る由々しき事態だ▲実は日本も同様のミサイル開発に本腰を入れ始めている。ただし防衛省は「スタンド・オフ・ミサイル」と呼ぶ。巡航の言葉を避ける理由はよく分からないが、どうやら先制攻撃には使わないという意味があるらしい▲ラグビー好きにはおなじみだろう。背番号10の選手はスタンドオフと呼ばれる。それは、敵味方が密集するスクラムやモールから「少し離れて立つ」ため。冷静に状況を見極めながらボールを回す司令塔である▲防衛省にとっては「相手の攻撃が届かない場所から発射する長距離ミサイル」を意味するようだ。これを備えることで、わが国に攻め込む艦艇にも遠く離れた安全な地点で対処できる…▲だが列島の至る所が相手ミサイルの射程内となれば、こちらの発射場所はなくなってしまう。専守防衛と言いくるめてきたこと自体が無理筋だったのでは。むしろ、北朝鮮の暴走を冷静に諭す背番号10の外交官はいないものか。

(2021年9月14日朝刊掲載)

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