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[考 fromヒロシマ] CTBT 見通せぬ発効 「爆発伴う核実験禁止」採択から25年

地震波など監視網 世界中に

 1996年9月に国連で採択された包括的核実験禁止条約(CTBT)は、爆発を伴う核実験を禁止の対象とする。25年後の今も発効していない一方で、爆発を伴わない実験も禁止に含めた核兵器禁止条約が、50カ国の批准を達成して今年1月に発効した。CTBTの現状はどうなっているのか。節目を捉えて理解を深めたい。(金崎由美)

 「核実験による悲惨が決して繰り返されないよう、早期発効へ共に努力を」。ニューヨークの国連本部で8日あった「核実験に反対する国際デー」(8月29日)に関する国連総会ハイレベル会合で、CTBT機構準備委員会のロバート・フロイド事務局長が各国代表に訴えた。英国の核実験で健康被害を受けたオーストラリアの先住民スー・ハセルダインさんたちはビデオメッセージを寄せた。

 CTBTには国連加盟国の9割以上の185カ国が署名し、170カ国が批准も済ませた。なおも未発効なのは、原子炉を持ち核開発能力がある日本など44カ国全ての批准、という高いハードルがあるためだ。

 核兵器を持つ9カ国中、批准済みはロシアと英国、フランスで、米国と中国、イスラエルは署名止まり。インド、パキスタンと北朝鮮は未署名だ。非保有国は日本などが批准している一方で、イランやエジプトが残る。近い将来の発効は、到底見通せない。

 ただし「事実上の規範として機能している」と大阪大の黒沢満名誉教授(軍縮国際法)は指摘する。北朝鮮が核実験を強行しているとはいえ、世界的に「核実験はCTBT違反」という認識が広まり、核保有国の自制につながっている。

 核実験を探知、検証する体制の整備が既に進んでいることもCTBTの特徴だ。実験で漏れ出る放射性核種や地震波などの監視網が世界に張り巡らされ、オーストリア・ウィーンにある機構準備委員会にデータが集約されている。日本国内の監視施設は計10カ所で、日本国際問題研究所(東京)の軍縮・科学技術センターが事務局を担う。

 広島平和文化センターの小溝泰義前理事長は、核兵器禁止条約にとって大きな課題である「検証」について、CTBTが一部で役に立つ可能性があると強調する。

 禁止条約は4条で、核兵器を保有してきた国が加盟する場合、本当に核放棄しているかなどを検証する国際機関を指定すると定める。だが、どの国際機関が担うかや、検証の具体策は明記しておらず、締約国会議での議論が必要となる。一方で前文は「CTBTとその検証体制が核軍縮と不拡散体制の中核的な要素として、極めて重要」と記す。「核実験をしていないかどうかの検証は、CTBTの監視機能で補うことができる」

 未発効、という以外にもCTBTの課題はある。臨界前核実験をはじめ、爆発を伴わない最先端の実験は禁止対象外だ。それでも広島市長と長崎市長は、繰り返し抗議してきた。「核兵器廃絶に逆行する取り組みは許さない、と被爆地から原点の声を上げ続けることは大切」と小溝さん。黒沢さんは「粘り強い訴えによって、爆発を伴わない実験への注目を国際社会に喚起し、禁止条約の交渉会議にも影響を及ぼした」と話す。

米中など問われる未批准国

 米国は1945年7月16日、史上初の原爆実験を米本土のトリニティ・サイトで実施した。3週間後に広島、その3日目に長崎を壊滅させた。これまでに世界中で2千回以上の核実験が繰り返され、周辺地域や「風下」住民の健康被害と環境汚染という、深刻な代償をもたらした。

 CTBTの基は、冷戦期に米国と旧ソ連、英国が締結した63年の部分的核実験禁止条約(PTBT)だ。大気圏実験は禁止になったが、地下核実験は対象外だった。その後、核拡散防止条約(NPT)の軍縮義務を強化する意味合いを持つ「包括的」な禁止条約の国連採択にこぎ着けた。

 新型核の開発や、核兵器の改良には核実験が必要とされる。禁止は、核保有国を増やさない「核不拡散」と、核保有国の「軍縮」を進める上で欠かせない。核抑止力への依存政策を取る日本政府だが、CTBTについては一貫して推進の立場だ。条約を巡る「賢人会議」を2015年に広島市内で開き、ペリー元米国防長官ら核軍縮に熱心な各国の閣僚経験者や元首脳を受け入れるなどしている。

 発効が見通せない中、特に米国と中国の批准を求める声は強い。米国の場合は上院の3分の2の賛成が必要で、国内手続きのハードルは高い。99年に否決されたままだ。トランプ政権時は署名撤回が危惧された。核実験被害者の苦しみの上にある条約を「事実上の規範」から「実定国際法」にするには、国際的な世論の盛り上がりが欠かせない。

(2021年9月14日朝刊掲載)

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