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社説・コラム

[被爆75年 世界の報道を振り返る] ドイツ オーストリア スイス 原爆投下に批判的 大多数

「核抑止」「平和利用」は温度差

■ウルリケ・ヴェール 広島市立大教授

 ドイツ、オーストリア、そしてスイスのドイツ語圏は一つの「文化・言語空間」と捉えられる。実際、昨年の被爆75年報道には多くの共通点があった。

 米国による原爆攻撃に批判的な記事が大多数で、被爆者の証言を引用しながら被爆の実態を伝えようとする記事や、反核運動の動向を追う記事が多かった。「黒い雨」訴訟や旧陸軍被服支廠(ししょう)の保存運動も取り上げられた。戦争責任、憲法9条などを巡る日本政府の態度に批判的な内容も少なくなかった。

 もちろん3カ国の歴史、社会、外交関係などの特徴を反映する違いもある。特に「核戦争防止」と「核の平和利用」という、広島・長崎とそれ以降の核被害の歴史が人類に突きつける問題について、そうだった。

 オーストリアの新聞は「核廃絶」を明確に打ち出していた。さすが「核のないオーストリアのための連邦憲法法規」を制定し、いち早く核兵器禁止条約に署名した中立国である。例えばディ・プレッセのオピニオン記事は、世界の破壊を防止できるのは「完全な核武装解除」のみだとする。デア・シュタンダードは、被爆国日本が禁止条約に署名していないと、子ども向けの記事でも説明した。

 一方のドイツは、米軍の戦術核を国内に備蓄しているが、反核・平和運動も根強い。核抑止力に依存しながら段階的に軍縮すべきか、あくまで廃絶を目指すべきか、議論が紙面上で交わされた。オーストリアと同じ中立国だが禁止条約に未署名で、実は長らく核開発計画を進めたスイスの新聞では、そのような議論は深まらなかった。

 原発についても似た図式で、脱原発・原発禁止に対する3カ国の温度差があらわになった。日本の原子力政策、使用済み核燃料の再処理とプルトニウム保有、核武装の可能性-の関係について指摘された。戦争被爆国の日本が「核の平和利用」に至った戦後の経緯や、福島第1原発事故でも明らかになった原発の危険性に詳しく言及したのは、オーストリアの各新聞とドイツの新聞の一部。やはりスイスの新聞でそのような議論は見られなかった。

 ドイツ語圏のメディアにおける被爆75年報道は、各国の社会と政治を色濃く反映しながら、広島・長崎への原爆攻撃をどう記憶し、そこから何を学ぶかの議論を続ける重要性を示した。

(2021年9月14日朝刊掲載)

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