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「黒い雨」見えぬ新基準 相談500件 広島県・市は「手帳申請待って」

 広島への原爆投下後に降った「黒い雨」を巡る訴訟の広島高裁判決確定や原告以外の黒い雨被害者も救済する政府方針を受け、被害を訴える人からの相談が広島県や広島市に相次いでいる。判決確定から約1カ月半で、訴訟を支援してきた被爆者団体も含めて延べ計500件以上に上る。しかし、原告以外の被害者を被爆者に認定する新基準の策定のめどは立っておらず、県と市が申請を待つよう求める事態になっている。

 「現時点では何も決まっていない」。新基準の方向性や改定時期について、厚生労働省の担当者は中国新聞の取材にそう繰り返す。

 菅義偉首相が上告断念を表明した翌日の7月27日、政府は、訴訟に参加していない人の救済も早急に検討するとの首相談話を閣議決定した。黒い雨被害者を幅広く被爆者と認めるには従来の基準を改定する必要があり、その作業は厚労省が県市と連携して行う。同29日の判決確定後、3者は同30日と8月31日にオンラインで協議したが、目立った進展はないという。

 こうした中、県市には原告以外からの問い合わせが相次ぐ。「以前却下されたが、もう一度申請したい」「私も雨を浴びた」。これまで県には約30件、市には約180件が寄せられた。訴訟を支援してきた県被団協(佐久間邦彦理事長)には約300件の相談があった。

 しかし、県市は相談者に対し、被爆者健康手帳の申請を待つよう求めざるを得ないという。行政手続法などにより申請から半年以内に審査結果を出すと取り決めており、半年以内に認定基準が改定されるかどうか不透明なためだ。

 一方で県市はこれまでに計17人の申請を受理した。行政手続法で自治体は申請書類を提出された時点で受理することになっており、事情を説明しても書類を出す人もいるという。県市は厚労省に対し、受理分の取り扱い方針を示すよう求めたが、まだ回答はないとしている。

 市援護課の宍戸千穂課長は「本当に申し訳ない」と苦しい胸の内を明かす。県被爆者支援課の二井秀樹課長も「早急に救済したいが、援護対象をどう広げるのかといった方針すら分からない」と当惑する。

 原告弁護団は今月18、19日、原告以外の被害者を対象にした相談会を開く。8月下旬に受け付けた予約は、受け付け開始から2時間で2日間分の定員(計80人)に達した。相談会後、県と市への集団申請を視野に入れる。

 県の推計によると、国の援護対象区域外で黒い雨に遭うなどした人は、原告と死者を除いて約1万3千人。相談・申請者は今後、増えるとみられる。弁護団の竹森雅泰弁護士は「私たちも協議の場に同席し、基準案の検討に関わることもできる。全ての黒い雨体験者を救済できるよう、県と市は国に遠慮せず物申してほしい」と早期改定を求める。(松本輝)

「黒い雨」訴訟を巡る確定判決と政府方針
 7月14日の広島高裁判決は昨年7月の一審広島地裁判決に続き、黒い雨が国の援護対象区域よりも広範囲に降ったと認定。被爆者認定は「放射能による健康被害が生じることを否定できないと立証すれば足りる」と判断し、原告全員に被爆者健康手帳を交付するよう命じた。菅義偉首相は上告断念を表明し、原告の勝訴が確定。政府は「訴訟への参加・不参加にかかわらず認定し、救済できるよう早急に対応を検討する」との首相談話を閣議決定した。

(2021年9月14日朝刊掲載)

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