×

連載・特集

緑地帯 神内有理 文化の地層 観古館 <1>

 広島県立美術館(広島市中区)は昨年、「入城400年記念 広島浅野家の至宝」展を開催した。旧広島藩主・浅野家ゆかりの武具、茶道具、書画、能道具など、国宝・重要文化財を含む約140点を国内外から集め、日本有数として名高い浅野家伝来作品の全貌を紹介する初めての展覧会となった。多くの方々の協力を得た渾身(こんしん)の展覧会であり、これを機に近世の広島文化への関心が高まれば幸いである。

 広島に移り住んでまだ4年の私にとって、広島の歴史は見えにくい。原爆の被害を受けたが故に、一見、それまでの歴史が見えにくくなっているのも大きな理由だろう。壊滅・消滅…そのような言葉が文化史に関する記述に並ぶ。人的な被害の凄惨(せいさん)さは言うまでもなく、文化においても同様の喪失と、それによる歴史の断絶がある。

 しかし、一見では見出しがたい広島の歴史も、時代の地層の中にそれぞれの営みとして存在しているはずであり、それを掘り起こし、明らかにすることは、歴史家のみならず学芸員の仕事でもある。なぜなら、私たちの行う作品の価値を判別するという行為は、歴史と社会の関係性の中に作品を配置することからはじまるからだ。

 広島県立美術館のある場所、浅野家の別邸・縮景園に隣接するここには大正2年10月12日から昭和20年8月6日のあの日まで、観古館という浅野家の美術館があった。この存在を重要な足場として、広島の近世から近代につながる一つの文化の脈をたどっていく。(じんない・ゆり 広島県立美術館主任学芸員=広島市)

(2020年8月20日朝刊掲載)

年別アーカイブ