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連載・特集

緑地帯 岡村有人 私の比治山 <4>

 学校に上がる頃となれば、もっぱら比治山の自然を相手に冒険だの探検だのと言って遊ぶことが多かった。比治山の南西急斜面の頂上近くには、子どもが何人も乗っかって寝そべることのできる天狗岩があって、子どもたちの秘密の集合場所として使われた。

 この大岩に座ると広島湾に浮かぶ島々が一望のもとに見渡すことができて、子どもたちは茫洋(ぼうよう)とした気持ちになった。そこから望む旧市街には、八丁堀の福屋デパートや中国新聞社を中心とするわずかな数のビル以外には目立つ物はなく、一望に鳥瞰(ちょうかん)できた。春がすみに浮かびあがる島々の段々畑や秋の紅葉は、自然と光が奏でる交響詩でもあった。夏は海からの南風を受けて涼しく、冬は日だまりとなって暖かかった。

 記憶をたどれば、初めて天狗岩に座ったのは私が5歳の時。父がその上に座って本を読んでくれた時のことだった。以来この岩のことが好きになって、仲間を誘って秘密基地に仕立てた。岩でできたデッキの下には、大人が十分に立つことができて雨風をしのげるちょっとくぼんだ部分があった。

 そこに身を寄せると、冬には太陽のぬくもりを吸収した岩が冷え切った体を温かく包んでくれた。この大岩の由来は、硬い岩の上に巨大な爪で引っかいたような痕があったことによる。

 その昔、大天狗がこの岩に立ちキックをして宮島までひと跳びした時にできた爪痕であると、子どもたちの間では伝わっていた。広島の市街地にも子どもたちに夢を与えてくれるこんな場所があったのだ。(東京皆実有朋会会長=東京都)

(2019年4月24日朝刊掲載)

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