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連載・特集

緑地帯 人間マンダラ 久保俊寛 <3>

 30歳での上京の直前、エンジニアとしてイラクでの肥料プラント建設に駆り出され、長期出張したことがある。滞在は、1970年9月から半年にわたった。

 イラクは当時からクウェートやイランと緊張関係にあり、建造物などの写真撮影はご法度、橋のたもとには武装した兵士がいた。バスラの南に建設中のプラントは、戦車で守られていた。砂漠に浮かぶ、ものすごい太陽にさらされながら、バスラの宿から連日、現場とを往復した。

 仕事の傍ら、メソポタミア文明の地の歴史と民衆をテーマに、水彩画を300点制作した。休日に街に出るのだが、写真を撮ると警官にフィルムを取り上げられる。スケッチの筆を走らせるのも、タクシーの運転手にとがめられた。古くて風情のある庶民の街を描きたいのに、「汚い所を描いて、イラクのイメージを落とすな」と。仕方なく、情景を目に焼き付けてホテルで描くようにした。

 帰国後、これらの水彩画を基に、二科展にアラブシリーズを出品。この海外経験で、世界を見る目が開けたと思う。

 34歳の年に母が他界し、“二足のわらじ”を脱したい、画業に専念したい思いが募り、36歳で退社した。二科をやめ、仕事をやめた私はまず、油彩画の本場であるヨーロッパを見たいと思った。

 1度目はパリ、2度目はスペインへ。2度目の往路の機中で、スペインの彫刻家サンチャゴ・デ・サンチャゴ氏と面識を得て、後に彼の紹介でマドリードで私の個展が実現した。彼の作品は、広島県立美術館にも所蔵されている。(美術家=千葉市)

(2018年11月22日朝刊掲載)

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