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連載・特集

緑地帯 人間マンダラ 久保俊寛 <4>

 「画家の皆さんが心を込めて描いてくれれば、必ず立派なものになります。大日如来さんが見守ってくれますから、自由にやってください」。山形県鶴岡市、湯殿山注連寺のご住職からこんな言葉を頂いたのが、1985年の春であった。

 湯殿山は出羽三山の一つであり、注連寺は開祖を弘法大師空海とする名刹(めいさつ)である。私は浄土真宗、安芸門徒の育ちで、密教の寺院に関わることに多少の抵抗感はあったが、東京の無所属の洋画家4人で、寺の4室の天井画を描く依頼を受けた。4人とも40代だった。構想2年、制作2年の4年間で完成を目指すことになった。

 この寺には有名な鉄門海上人の即身仏が安置されており、森敦の小説「月山」の舞台としても知られる。私の担当の部屋は本堂上段二の間で、格間で100枚に区切られた18畳の格天井。四季折々に寺を訪れ、風土に接しながら構想を固めていった。

 ある日、境内の一隅に、庄内札所霊場の一カ所としてこの寺が掲げる御詠歌を見つけた。「かのきしにねがひをかけておほあみのひくてにもるゝひとはあらじな」。誰一人漏らすことなく彼岸へと導く如来の願いを詠んだこの歌に、私は天井画のヒントを得たように思えた。諸仏、僧侶、道化、芸人、鬼神、仮面…さらには画家という実に救い難い人間まで、100人の「顔マンダラ」を描く構想に至ったのである。

 「聖俗百華面相図」と題し、明るく刺激的なマンダラ世界を創り出した。毎年、膨大な参拝客に見てもらえるのがうれしい。(美術家=千葉市)

(2018年11月23日朝刊掲載)

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