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連載・特集

緑地帯 人間マンダラ 久保俊寛 <7>

 私の出た小学校(呉市立昭和西小)から分離独立した昭和中央小の創立30周年記念として、2001年、校庭の壁画制作指導の依頼を受け、半年間かけて「人間ばんざい」が完成した。

 1年生から6年生まで、学年ごとのテーマを「喜」「怒」「哀」「楽」「生きる」「平和」とした。全児童、父母、教職員と私で総力を挙げたアクリル板製の大壁画は、今も校庭の子どもたちを見守っている。子どもにとっても大人にとっても、この壁画に表現した「いのち」について考えることは何より重要と思う。

 時は下って13年のある日、知人が大量の壁紙をアトリエに持ち込んだ。大きく頑丈なこの紙を見て、創作意欲がたぎってきた。

 山形・注連寺の天井画に「顔マンダラ」を描いて以来、肖像画に挑戦したいと思っていた時期で、早速、興味ある人物の顔を、大画面に鉛筆と墨を使って描き始めた。技法は写真を利用し、拡大コピーを重ねて壁紙に転写するもので、モデルの表情がリアルに浮かび上がる楽しみは、過去に経験したことがないものだった。

 被爆70年の15年夏、広島で「鬼籍のヒロシマ伝」と題した個展を開いた。モデルは「原爆の図」を描いた丸木位里・俊夫妻をはじめ、柿手春三、増田勉、四国五郎、殿敷侃(ただし)、入野忠芳らヒロシマゆかりの物故画家、お世話になった画廊や酒場の主たち…。

 その後も肖像画制作は継続し、今、1300点にも達している。人の顔は千差万別。かけがえのない「いのち」を映すその魅力に、興味は尽きることがない。(美術家=千葉市)

(2018年11月28日朝刊掲載)

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