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連載・特集

緑地帯 迫幸一を追って 戸田昌子 <1>

 ロンドンのビクトリア&アルバート美術館には、瀬戸の海が眠っている…そんなぼんやりとしたイメージがある。同館に収蔵されている「内海風物詩」(1967年)と題された写真のことである。

 撮影したのは写真家・迫幸一(1918~2010年)。呉市に生まれ、27歳の時に広島市内で被爆。戦後は広島写真界の復興に尽くした。50~60年代には国内外のコンテストで高く評価されながら、92歳で亡くなるまで広島を離れなかった。

 「内海風物詩」は、愛媛県宇和島市九島の段々畑を見下ろす壮大な風景写真で、曲がりくねった道を大八車がゆっくりと通り過ぎていく。人間の営みがつくり上げた緻密な景色が架空の風景に見えてくる、不思議な感覚の作品である。

 私が迫の写真に出会ったのは2年前。日本写真史の本を編さんする中で、地方作家として知られているにもかかわらず、作品の所在がわからないことが気になり、検索エンジンに名前を入れてみた。

 次の瞬間、見たこともない写真が次々に目に飛び込んできた。そこでわかったことは、迫はつい最近まで健在だったこと、作品が遺族の元に残されていること、毎年のように広島で小さな展示が行われていること、などであった。

 ギャラリー宛てにメールを送ると、数日後、携帯電話に着信があった。独特の音楽的な抑揚の声の主が、自分は迫の息子であると告げていた。私は2週間後、広島へ向かう。(とだ・まさこ 写真史家=東京都)

(2018年7月17日朝刊掲載)

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