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連載・特集

緑地帯 迫幸一を追って 戸田昌子 <8>

 1975年、「The Land(土地)」という展覧会がロンドンのビクトリア&アルバート美術館で行われた。写真のセレクションは英国を代表する写真家のビル・ブラント。その中に、迫幸一の「内海風物詩」(67年)と「白のパンセB」(54年)が含まれていた。

 なぜ迫の古い作品が、海外の美術館の目に留まったのか。その理由は、遺族の手元に残された75年2月24日付の同美術館からの手紙に書かれている。

 そこには、英国の写真年鑑の61、65年版に掲載された迫の作品を購入したいと書かれていた。10年以上前に海外へ送られた写真が、再発見されたのである。そのことが迫を発奮させたのであろう、同年10月、北日本出版から写真集「系譜」が出版されている。

 50~60年代、迫をはじめ「主観主義写真」に賛同した多くの写真家たちは、辞書をひきながら自分の作品に英文タイトルを付け、新聞社や洋書取次店、カメラ雑誌の募集などの呼びかけに応じて作品を海外へ送り続けた。「主観主義写真」とは、芸術を通じて世界的な同時代性を感じ取る方法そのものだったのである。

 60年代末になると、そうした古き良き時代の国際主義の価値観は古いモダニズムとして淘汰(とうた)され、迫は「忘れられた写真家」となった。しかし今でも迫の作品は、返却されなかった展示プリントなども含め、外国の美術館に眠り続けている。そのプリントがまたどこかで、ひょっこりと姿を現す日も近いのかもしれない。(写真史家=東京都)=おわり

(2018年7月26日朝刊掲載)

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