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社説・コラム

社説 在沖縄米軍の汚水排出 地元軽視 容認できない

 在沖縄米海兵隊は先月、発がん性の指摘される有機フッ素化合物を含む汚水を処理した上で米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)から公共下水道に排出した。その量は約6万4千リットル、ドラム缶だと300本を超す。

 有害な化合物の濃度は、日本政府の定めた暫定目標値を下回っており、安全だと主張していた。しかし宜野湾市の調べによると、濃度は目標値の13倍を上回った。昨年、一昨年の9月の調査では目標値を下回っていたから、汚水の影響で高い濃度になったのは間違いなかろう。

 しかも処分方法を巡って日米が協議していたさなかの一方的な排出だった。「激しい怒りを覚える」と玉城デニー沖縄県知事が憤慨したのは当然だろう。

 小泉進次郎環境相や岸信夫防衛相も「極めて遺憾」と口をそろえ、米側に強く抗議したという。国民の命や健康に関わる問題である。政府は引き続き、毅然(きぜん)とした態度で対応すべきだ。

 汚水に含まれている有機フッ素化合物は「PFOS」「PFOA」などで、米軍は泡消火剤の材料にしていた。環境中ではほとんど分解されず、人間や動物の体内に蓄積、発がん性の恐れがあると指摘される。国内では、PFOSは2010年の化学物質審査規制法の改正で使用が制限された。PFOAも来月下旬から同様の扱いとなる。

 こうした有機フッ素化合物を含んだ泡消火剤が漏出する事故が近年、沖縄で相次いでいた。例えば昨年4月には、普天間飛行場で約23万リットル漏れ、その多くは敷地の外にまで流れ出た。格納庫のそばで開かれたバーベキューパーティーが原因で、熱感知器が作動したという。

 日米間の問題となり、どう処分するか協議していた。今回が許しがたいのは、これまでのようにハプニングなどで意図せず漏れたのではなく、米軍が処分についての日本との協議を無視して流したことだ。これでは、信頼関係は崩壊してしまう。少なくとも主権国家に対する振る舞いではあるまい。植民地だと勘違いしているのだろうか。

 沖縄県は、従来通り焼却処分をするよう求めていた。にもかかわらず、環境に出したのは住民の安全をないがしろにすると言えよう。しかも、排出するとの通告メールが県に届いたのは、わずか30分前。甚だしい地元軽視で、到底容認できない。

 海兵隊は先週末になって、沖縄に残る泡消火剤の除去を完了したと発表した。焼却処理のため本州に送ったという。なぜ、最初からそうしなかったのか。

 全て除去したか、確かめるには、日本政府による立ち入り検査が不可欠だ。実際に有害物質の量や保管状況を把握しない限り、海兵隊の言葉を額面通りには受け取れない。岩国をはじめ国内の他の米軍基地の状況も、きちんと確かめる必要がある。

 ただ、立ち入り検査の要望はこれまで何度も、日米地位協定の壁に阻まれてきた。15年、基地内の現地調査に関する「環境補足協定」を結んだものの、前進したとは言い難い。環境事故時の調査受け入れを米軍に義務付けていないからだ。

 同じように米軍基地を国内に持つドイツは立ち入り検査が認められている。なのに日本はまだ実現できていない。政府は努力不足を反省して、地位協定の見直しを急がねばならない。

(2021年9月16日朝刊掲載)

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