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連載・特集

緑地帯 「聖地都市」考 杉本俊多 <2>

 聖地都市ローマはバチカン市国を含めて、サン・ピエトロ教会堂のほか、多数の歴史的な教会堂建築をちりばめる。サン・ピエトロ教会堂は市郊外にあった殉教者ペテロの墓の上に、ほぼ正確に東西軸上に配置されたバシリカ式教会堂に始まる。紀元4世紀初め、皇帝コンスタンティヌスの下でキリスト教がようやく公認され、着手されたのだが、ペテロの殉教後250年ほどもたっていた。

 やがてルネサンスの16世紀初めに改築が始まり、錚々(そうそう)たる芸術家たちの手を経つつ、今日の姿になる。今もローマの都市景観のアクセントとなっている美しいドーム屋根とその足元は、ミケランジェロの設計案に基づき、独特の力感を見せる。西洋建築史の講義ではその形の変遷過程がひとつの焦点となる。

 その後もサン・ピエトロ教会堂のドーム屋根は、ローマ市のスカイラインのアクセントであり続けてきた。近代都市ローマには、放置すれば超高層建築が林立してもおかしくはないが、その景観は政策的に守られてきている。

 広島では原爆ドームが同様の象徴的な役割を果たしているが、都市の中心部にあるために高層建築群の中に埋もれている現状である。永く世界的な聖地都市であろうとするなら、周辺の景観だけでなく、デルタ全体を視野に考えておくべきことがあるように思う。

 それは政策的な景観規制という水準にとどまるのではなく、聖地都市の将来的な景観目標を描いて、市民の共通理解とし、市民が共同して創造していくべきものだろう。(広島大名誉教授=東広島市)

(2018年6月26日朝刊掲載)

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