×

連載・特集

緑地帯 「聖地都市」考 杉本俊多 <4>

 もう40年前になるが、東西冷戦を象徴する「壁」で囲まれた当時の西ベルリンに留学生として住んだことがある。私の目には醜く、鬼気迫るものでしかなかったコンクリートの壁は、今は芸術家たちのキャンバスともなって、楽しげな観光地にまでなっている。

 遺跡としての「壁」の断片は、ベルリンのあちこちに保存されている。ベルナウアー通りの野外博物館「壁メモリアル」では芝生を張って公園化し、土と木でできたエコ建築のチャペルを加え、現代的でアーティスティックな空間となっている。

 説明書きを読めば、この場所がいかに悲惨な事件現場だったかを知ることができるが、それがなければ気持ちのよい公園である。

 広島には被爆建物があちこちに残るが、ベルリンの「壁」遺跡や戦争遺跡群と比較してみたい思いに駆られる。醜い遺物であっても、デザイナーの腕次第で親しみやすいスポットに転換できる。

 被爆建物をどのように再利用できるかという議論があるが、必ずしも用途がなくてもよいのではないか。被爆建物は遺跡公園として現代的なデザインを施せば、広島を「聖地」として訪れるツーリストたちが足を運べる場所にすることができるのではないか。

 18世紀に欧州で流行した風景式庭園、別名イギリス式庭園では、緩やかにうねる広大な庭園の中、灌木(かんぼく)に隠れるように古代神殿や中世教会堂を模した人工の廃虚がある。それはピクチュアレスク(絵画風)の美学と呼ばれるが、その美学の延長上に、遺跡公園がデザインできるだろう。(広島大名誉教授=東広島市)

(2018年6月28日朝刊掲載)

年別アーカイブ