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連載・特集

緑地帯 「聖地都市」考 杉本俊多 <7>

 スペイン北西の旧市街サンティアゴ・デ・コンポステーラを目指す巡礼路は有名だが、欧州で巡礼路は網の目を成し、人里離れた所に歴史的な教会堂の見事な建築がぽつんと立っていたりする。巡礼路には古くから巡礼宿があり、それは営利目的よりも無償のホスピタリティーを旨とした運営がなされているようだ。

 最近、戦争や自然災害によって大きな悲劇があった場所を訪れる「ダークツーリズム」という言葉がよく聞かれるようになった。そこには怖いもの見たさの好奇心もあろうが、悲劇の現場にじかに触れて人間的に成長しようという、新しい巡礼スタイルという一面もあろう。

 高い旅費を払って広島まで足を延ばす外国人観光客は、より高い精神性を求める、いわば現代の「巡礼者」とも見なせる。原爆ドーム、原爆資料館の展示、被爆建物群などを巡って、死を感じ、心を痛めるであろう彼らには、その後に生のありがたさを再確認できる場所を用意すべきだろう。

 私たちには数寄屋庭園という文化がある。それは、例えば縮景園(広島市中区)のように、加工された自然を巡りながら疲れた目と心を癒やす空間装置である。

 山並み、島並みに囲われ、海、川に恵まれたデルタ都市広島は、いわば巨大な数寄屋庭園に見立てることができる。これは欧州の風景式庭園に見られるピクチュアレスク(絵画風)の美学にも通じるものである。人類史的な悲劇を刻む原爆ドームという廃虚もそこで、都市のアイコンとしての役割を担い得ると思う。(広島大名誉教授=東広島市)

(2018年7月3日朝刊掲載)

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