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連載・特集

緑地帯 「聖地都市」考 杉本俊多 <8>

 学生時代、東西対立の現場だったベルリンに住んでから、平和な都市のあり方について思いを巡らすようになった。冷戦時代が終わってベルリンが統一された後にも、世界にはテロリズムという新しい危機の構造が生まれ出た。

 ある建築家の展覧会を見に行った米ニューヨークでは、偶然にも9・11テロに遭遇した。煙の臭いのする数日間、悶々(もんもん)として世界の行く末へ思いを巡らしていた。

 グローバル時代のテーマである多文化共生の都市とはどういうことかが、心に引っかかってきた。文明の十字路ともいわれる歴史都市イスタンブールを訪れた時にも、イスラム圏での近代都市のあり方に興味を引かれた。もちろん、極めてオープンに変貌したグローバルシティーとしてのベルリンにも可能性を探ってきた。

 「聖地都市」というテーマを見いだしてから、その最たるものというべきエルサレムも訪れてみた。石積みの市壁で囲われた内側は田の字に区分され、イスラム教徒、ユダヤ教徒、キリスト教徒、アルメニア人とほぼ分化した居住区が併存している独特の都市構造は、共生の一つのあり方と見えた。しかしそこは危ういバランスの上にあり、なお困難な未来が待ち構えているようだった。

 今、世界は分断へと向かい、異文化間の対立を超越する目標を欠いているように見える。新しい形の聖地都市が、世界中の人々の心を一つにまとめられないか。世界中の人々が交流する新しい多文化共生都市として、広島をデザインできないものかと思う。(広島大名誉教授=東広島市)=おわり

(2018年7月4日朝刊掲載)

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